最近マッサージを受けた知り合いが、肩から背中の痛みが軽くなり、体の動きもスムーズになったと聞きました。自分はコンピューターでのデスクワークがほとんどで、肩甲骨の内側を押すと首の後ろまで痛むことがあります。どのように肩こりや筋肉のこりを解消したらよいか教えてください。
Point
- こりは筋肉疲労と血行障害が要因
- 同一姿勢でも筋肉疲労
- 筋膜の癒着で体が硬くなる
- マッサージで筋肉の緊張と血流改善
- 効果期間は限定的なことも
- ドイツではフィジオセラピーにて
こりの原因(Spannung, Steifheit)
● 筋肉疲労と血行不良
①スポーツや肉体作業による筋肉(Muskel)の酷使、② デスクワークなどで同じ姿勢を長時間続ける、③運動不足、④精神的なストレス、④歩き方や椅子や靴の影響など、さまざまな要因が挙げらます。
● 身体作業による筋肉疲労
スポーツや長時間にわたる作業で筋肉の緊張状態が続くと、筋肉の柔軟性が低下して硬くなります。そのため血管を圧迫して血流を滞らせ、筋肉の疲労回復が遅れます。血行不良は乳酸などの代謝産物の排泄を遅らせ、さらに筋肉の緊張を刺激して回復を妨げます。
● 同じ姿勢による筋肉疲労
例えば、コンピューター作業では一定の姿勢を保つために、筋肉(縮む作用の主働筋と伸ばされないようにする拮抗 )筋は常に緊張した状態です。また筋肉の伸び縮みによって促される血液の流れ(筋肉ポンプ)も妨げられ、血行が悪くなります。
● 不動が筋膜の癒着も
筋膜(Fascie)は筋肉を包んでいる薄い膜で、筋肉の伸縮に際して筋膜も滑らかに動く必要があります。長時間にわたり筋肉の動きが乏しいと、筋膜の動きも滑らかさが失われて癒着を生じることも。癒着は筋肉の柔軟性を損なう原因になります。
デスクワークと過度なスポーツによる肩こりや筋肉のこりデスクワーク | 過度なスポーツ | |
---|---|---|
要因 | 不動の姿勢 | 筋肉の酷使 |
筋肉疲労 | ○ | ○ |
血液の循環低下 | ○ | ○ |
乳酸の滞り | ○ | ○ |
症状 | 肩こり、頭痛、腰痛 | 筋肉のこり、痛み |
マッサージ効果 | ○ | ○ |
筋肉の圧痛
● 圧痛点(Druckpunkt)
押すと強い痛みを感じるポイントが「圧痛点」で、筋肉のこりの強い部分に一致します。内蔵の病気からも特定の部位に圧痛点が見られることがあります(胃潰瘍、胆道疾患、虫垂炎、逆流性食道炎など)。
● トリガーポイント(Triggerpunkt)
トリガーポイントとは痛みのある部位で、そこを押すことで離れた場所にまで痛みを生じる箇所のことを指します(例えば肩甲骨内側の圧迫で同側の腕全体が痛むなど)。トリガーポイントは、筋膜の部分に硬い塊として手で触れることができます。
肩こり(verspannte Schulter、steife Schultern)
● 首すじから背中まで
肩こりには、首の後ろから、肩、背中にかけてつながっている僧帽筋が関係します。そのため肩だけではなく、背中や首までの広い範囲に症状が現れます。僧帽筋や肩甲挙筋にあるトリガーポイントが、首や後頚部 の痛みに関係することも。
● 緊張型頭痛(Spannungs-Kopfschmerz)
強い肩こりは、「緊張型頭痛」と呼ばれる慢性頭痛の原因となります。前述の僧帽筋や側頭筋、後頚筋の強いこりが神経を刺激するためと考えられています。痛みが強いときは吐き気を伴うことも。長時間のデスクワークや運転で同じ姿勢を長く続けるなど、筋肉の疲れがたまる1日の仕事が終わりに近い時間帯に起こりやすいといわれています。
● 精神的ストレスも関連
多忙や多大な緊張感を強いられるような精神的ストレスも筋肉の緊張を高め、肩こりや緊張型頭痛の増悪因子になっていると考えられています。
● 肩こりの予防について
日本整形外科学会は、①同じ姿勢を長く続けない、②蒸しタオルなどで体を温めて血行を良くする、③適度な運動をする、④入浴などで体を温めてリラックスする、などを挙げています。
● 肩こりの治療
マッサージ療法(次項)のほか、筋肉を温めて筋肉の緊張をほぐす(熱めのシャワー、入浴、温湿布など)、ストレスの軽減(仕事量を減らす、臨床心理士の助言)、痛み止め薬(Schmerzmittel、Analgetikum)などが挙げられます。
マッサージ療法(Massagetherapie)
● マッサージ(Massage)
手のひらや指を用いて、皮ふをこする、圧迫する、もむ、たたくことによって行う手技療法(manuelle Therapie)です。
● マッサージ効果は?
筋肉についての知識にのっとったきちんとした手技のマッサージでは、筋肉の緊張状態を和らげ、静脈の血液やリンパの流れを改善し、痛みの軽減や運動機能の改善が期待されます。肩こりでは、肩だけではなく僧帽筋が広がる背中から後頚部までの広い範囲のマッサージを行います。こりの原因となった問題が改善しない場合、効果期間は限定的なことも。
● 筋膜リリース(Faszienlösung)
優しく体の表面を手のひらでこするように筋膜に働きかけ、筋膜の癒着を取り除く手法を「筋膜リリース」といいます。筋膜の癒着がなくなると筋肉の張りやこわばりがなくなり、同時に筋肉の柔軟性が増して関節の動きも改善します。
● トリガーポイント療法(Triggerpunkttherapie)
トリガーポイント部位の治療を行うことにより、トリガーポイントに起因する痛みを取ることを目的とした治療です。筋膜リリースなどの手技的治療のほか、超音波(エコー)ガイド下注射で、筋膜が厚く肥厚している部分に薬物や生理食塩数を注入する方法もあります。
● リラクセーション効果
適切なマッサージ療法である場合は、メンタル面におけるリラクセーション効果も期待されます(1998年のAm Psychol誌)。
● 医師の処方箋による治療
ドイツでは医師が治療上必要としマッサージ療法の処方箋(Rezept)を出した場合、理学療法科(Physiotherapie)施設にて、通常は1回の処方せんで6回まで医療マッサージを受けることができます。
用語
● 医療マッサージ(medizinische Massage)
痛みや機能障害からくる身体症状の改善、筋肉のけいれんを和らげるなど、特定の臨床的な目的をもって行うマッサージのことです(J.H.Clay著「Clinical massage」2008年版より)。
● 理学療法(Physiotherapie)
病気・けがなどが原因となって引き起こされる機能障害に対して、筋力・関節の動きなど身体機能の改善を図るための運動療法(Krankengymnastik)と、痛み・循環障害などの改善を図る物理療法(Physicalische Therapie、マッサージを含む)を行います(厚労省のe-ヘルスネット)。
● カイロプラクティック (Chiropraktik)
関節、特に脊椎関節の矯正と治療を重視した治療法です(J.H.Clay『Clinical massage』2008年版より)。
● 指圧療法(Shiatsu)
手指と手のひらのみを用い、体表のツボ(指圧点)を押す日本発の技法です。最近はドイツ国内でも指圧を受けられるようになってきました。
● ストレッチ療法(Streching)
筋肉を伸ばす体操で、運動前後に行うことでスポーツ障害の予防に役立ちます。日常生活でも筋肉の柔軟性の改善、筋肉疲労の軽減、血液循環を改善させることにもつながります。