この3月に駐在員としてドイツに着任しました。駐在員は基本的にプライベート医療保険に加入しますが、なぜ公的保険ではないのでしょうか。またドイツでの検査や治療に関して、日本とどのように違うのか教えてください。
Point
- 公的保険は加入義務ある法的保険
- プライベート保険加入には公的保険の加入義務解除が必要
- 保険収載項目でも保険適用とは限らない
- 処方薬はジェネリック薬剤が主体
- 薬剤は箱(びん)単位の処方
- 外来は開業医、病院は入院治療のため
公的保険には加入義務があるのでしょうか?
法律で決められた義務保険
ドイツの公的健康保険(以下、公的保険)は疾病金庫(Krakenkasse、例としてTK、DAK、 AOKなど)により運営されていて、本来全ての人に加入義務ある義務保険で「法的健康保険」(Gesetzlichere Krankenversicherung、GKV)とも呼ばれます。
保険料は所得によって決まる
公的保険の財源は加入者の保険料だけでまかなわれています。その保険料は年齢や性別、以前の病気の有無とは関係なく、所得(Einkommen)が多いほど高くなります。扶養家族の保険も同時にカバーされます。
公的保険加入義務の解除とは?
収入が数年にわたり連続して一定以上(2024年からは年収6万9300ユーロ以上)の場合、公的保険への加入義務が解除され、プライベート保険に加入できます。しかしいったんプライベート保険に移行すると公的保険に戻るのが難しくなります。
プライベート保険は公的保険と何が違うのですか?
民間保険会社が提供する健康保険
ドイツの国民皆保険の制度に民間のプライベート保険(Private Krankenversicherung、PVK)が組み込まれているのが、ドイツの医療保険制度の特徴です。
より高めの保険料、より優れたサービス
契約内容、加入前の病気、継続治療の必要性などにより保険料は異なってきます。公的保険に比べて一般に保険適応の範囲が広く、ほかの専門科受診も家庭医を通さずに直接予約をすることができます。入院では個室を利用でき、主任医師や医長のような上級医(Oberarzt/-ärztin)による診察を受けられます。
一旦自己負担し後で請求
プライベート保険を用いた診療費や処方せんによる薬代はいったん自己負担し、後で保険会社に請求します。契約で認められた金額が還付されます。
保険収載項目でも適用されないことがありますか?
「保険収載 = 保険適応」ではない
日本と同じように新しい薬剤、治療法、検査は、国が定めた保険点数(Ziffer)と共に保険項目として収載されます。しかし、公的保険では疾病組合が認めないと保険が適用されません。例として、かつての吸入型インスリン(ファイザー社)がありました。
保険適応の制限
公的保険でカバーされる治療薬や検査法に制限があります。新薬、高価な薬剤の使用には専門科の書類が必要になることも。また、プライベート保険でも全てが保険でカバーされるわけではありません。MRI(ドイツではMRT)のような高額な検査をする前に、保険でカバーされるかを保険会社に確認しておくと安心です。
駐在員の団体プライベート保険の場合
年齢が若く健常な駐在員では、脳卒中、心筋梗塞、がんなどの病気にかかるリスクが低く、保険料が低めに抑えられた団体保険に加入している場合が少なくありません。その場合、高額な検査や治療法の適用にさらに制限がある場合もあります。
プライベート保険加入時の申告義務の大切さ
プライベート保険加入の際に、以前の病気、治療中の病気、経過観察を必要とする病気などの記載を怠ると、いざというときに保険適用にならなかったり、申告義務違反で保険料が高くなったりすることがあります。
「家庭医」とは何ですか?
家庭医は専門医の一つ
1924年にスタートしたドイツの専門医制度は、現在32領域の60以上の専門医資格により成り立っています。このうち公的保険との契約下で公的保険患者の外来診療を行う医師を「契約医」と呼び、「家庭医」(内科と一般医学、Hausarzt/-ärztin)もその一つです。
全ドイツを395区域に分けて専門医を配分
ドイツの公的保険の特徴の一つは、地域ごとの専門医の「定員制」です。全国を395の区域に分け、その区域、専門領域ごとに公的保険が契約する開業医の定員数が決まっています。公的保険の契約開業医は家庭医も含め、受け持つことのできる患者数の大凡の上限があるため、1人の家庭医が上限以上の患者数の家庭医になることはできません。
他科を受診するとき
公的保険患者がほかの診療科を受診するときは、家庭医を通して紹介してもらうとスムースです。自身の家庭医を通さずにほかの専門家外来を受診しようとしても、予約が取れるまで相当待たなくてはならないことも。プライベート保険患者はこの限りではありません。
処方薬剤に公的保険は適用されますか?
保険適用はジェネリック薬が大半
公的保険では、ジェネリック薬の処方のみ保険適用となる場合がほとんどです。オリジナル薬は差額を自費負担します。また、処方せんにメーカー名が記されていても、ドイツの薬局では薬効が同等で、より低価格の製剤を代替調剤できる仕組みになっています。
処方薬は箱(びん)単位で
ドイツでは通常、日本のように「何日分」という処方はしません。「N1」(小)、N2(中)、N3(大)と箱(びん)の大きさで選びます。また、日本では薬剤1錠(カプセル)当たりの薬価が決められており、100錠の場合は単純に1錠の100倍の薬代になりますが、ドイツではN1~N3の価格に大きな差がないこともあります。
ドイツの病院は外来診療がないのは本当ですか?
外来診療は開業医院で
ドイツの外来(Ambulanz)診療は診療科を問わず、病院(Krankenhaus)ではなく、基本的に開業医院(プラクシス、Praxis)が担っています。レントゲン検査も放射線科(Radiologie)の開業医院で受けます。外来診療のほとんどは予約制で、朝早くから順番待ちという光景は見られません。最近はオンラインで予約を取れる医療施設も増えてきました。
病院は入院治療の医療施設
ドイツの病院は入院治療を行う医療施設です。日本の病院から外来部門を省いたようなものと想像すれば、理解しやすいでしょう。退院すると紹介元の家庭医あるいは紹介医に戻って治療、経過観察が継続されます。
病院には救急外来あり
多くの病院には夜間の救急外来が設けられており、そこで必要と判断されれば入院となります。それ以外は対症療法の薬をもらっていったん自宅に帰り、症状が続く場合は翌日以降に家庭医の診察を受けます。