冬期のうつ気分
私達の気分は気象条件に大きく影響を受けます。一般にカラッと晴れた日は爽快で、どんよりした日はそうではありません。夏時間が終わり、朝夕が急に暗くなってくると、春先から夏にかけてのウキウキした気分とは対照的に気分は沈みがちになります。この傾向は緯度が高いドイツや北欧では顕著です。日照時間の減少、気温低下、曇天などが関係していると考えられています。
こんな気分になったことはありませんか?
今まで美味しいと思っていたドイツ料理を見ると食欲がなくなる。公園や町並みを見ても無性に寂しく感じられる。綺麗だった森の景色が無味乾燥に見える。主張が明瞭で羨ましかった周囲のドイツ人が急に傲慢に感じられる。年末の一時帰国が話題になると取り残された感じがする。誰もが「哲学者の心境」になってくるのもこの季節です。(表1)
- 身体の調子が良くない
- 気分が優れない
- 人と会うのが億劫だ
- ものごとに対し悲観的
- 家に引きこもりがち
- 景色がうら寂しく奇麗に見えない
- 何も楽しくない
- 特に欲しいものがない
- 将来に対する明るい希望がない
原因はホームシック?
ドイツで初めて冬を過ごす人や、日本人の少ない都市に単身で暮らしている人は、慣れない言葉や習慣に対する緊張が解け始め、ちょうどホームシックになりやすい時期に当たるかもしれません。ホームシックにかかっている人にも、うつ気分がみられます。
「冬季うつ病」とは何ですか?
誰にでもある冬の気分の落ち込みですが、なかには冬の間は気分の落ち込みが極端に激しい人がいます。うつ病と似た症状が季節的に出る病気で、「冬季うつ病」(ドイツ語はWinterdepression)と呼ばれています。欧米では20~40代の女性に多く、北欧では10人に1人にみられるとの報告もあります。別名、「季節性感情障害」「季節性うつ病」「冬うつ」「秋冬うつ病」などとも呼ばれています。
主な症状は?
11月頃から抑うつ気分が出現し、2、3月頃まで続きます。ほぼ毎年、同時期に繰り返されるのが特徴です。夏は好調なのに冬は体調が悪く、憂うつで、物事を悲観的に捉え、家に引きこもりがちになります。日中でも眠く(過眠)、食欲は増進(過食)、炭水化物や甘いものを好むため冬時期には太る傾向があります。
原因は何ですか?
原因はまだ明らかではありません。高緯度地域の冬期間にみられることより、日照時間との関係が考えられています。光との関連で、体内時計に関係するメラトニンや、脳の活動に関係するセロトニンなどといった物質が関与しているともいわれています。実際に光療法(高照度光照射療法)で治療すると効果が見られます。
「うつ病」との違いは何ですか?
冬季うつ病はうつ病の1種と考えられていますが、いくつかの点で違いがあります。うつ病には季節性がないのに対し、冬季うつ病は季節が主に冬に限られる点、うつ病では不眠・食欲不振になることが多いのに対し、冬季うつ病では過眠・過食になることが多い点、うつ病治療の基本が薬物療法にあるのに対し、冬季うつ病では光療法が奏功する点などです。
うつ病は「気持ちの持ちよう」ですか?
まだ一部の人の間では「うつ病は心の問題だから、気持ちの持ちようで治るはず」という偏見がありますが、うつ病は気分障害を主体とする「体の病気」の1つです。適切な薬物療法で症状を軽減することができます。うつ病は決して精神的な弱さなどに起因する病気ではありません。
「冬季うつ病」は日本にもありますか?
あまり話題になることは多くないようです。しかし、太平洋側から日本海側に転居したり、北側の日の当たらない部屋に移ってから落ち込むという人もいると聞きます。日本では何ともなかったのに、ドイツに引越してから初めて経験する人の方が多いようです。
治療法はありますか?
春先には元気になるため、気がつかない場合がほとんどです。しかし、日常生活に支障を感じる場合には、勇気を出してまず1度受診することも解決法の1つでしょう。欧米では日光浴や光療法が6~7割の人に有効とされています。うつ病に準じた薬物による治療が用いられることもあります。
日常生活での留意点
日照時間との関連が指摘されていることから、散歩などで積極的に日光に当たるよう心がけるようにしましょう。寒さにめげず、積極的に催しやパーティーに参加するのも良いでしょう。12月に入るとクリスマス市(Weihnachtsmarkt)も開かれます。日中寒くても、ぜひ訪れてみてください。休暇などでは日照量の多い南国地方への旅行もお勧めです。