盲腸(虫垂)とは?
盲腸という言葉はドイツ語(Blinddarm)からの直訳で、お腹の右下腹部に位置する小腸との境にある大腸の一部分を指します。盲腸部分から細長く飛び出した突起部分が虫垂(ちゅうすい、Appendix)(図1)ですが、この部分を慣用的に「盲腸」と呼ぶことも少なくありません。
図1 虫垂の位置
虫垂は必要な臓器ですか?
虫垂は免疫力の維持に関係するリンパ器官で、本来は腸管の免疫機能に何らかの影響を与えていると考えられています。また、虫垂には草木の繊維質の分解を助ける有用な細菌が蓄えられており、草食動物にとっては欠かせない役割を担う臓器です。しかし現代人にとっては、虫垂は切除しても体に影響を及ぼさない臓器であることが確認されています。
盲腸炎とは?
細菌感染による虫垂の急性炎症が虫垂炎(ドイツ語でBlinddarm Entzündung)で、単に「盲腸」と呼ばれることがあります。虫垂炎を生ずる細菌の増殖は虫垂の内腔が詰まることが原因と考えられています。炎症が進行し虫垂の壁が破れて膿(うみ)が腹腔に流れ出すと、より厄介な腹膜炎を起こします。現在は抗菌剤や手術によって完治するため、それほど重大な疾患とは思われていませんが、麻酔や消毒技術が確立される前までは命取りになりえる病気でした。
虫垂炎の症状は?
虫垂の存在位置から、典型的な症状は「右側」の「下腹部」の痛みです。多くの場合は、漠然とした痛みがみぞおちの当たりや、へそ周囲から始まります(図2、表1)。微熱や悪寒、だるさ、食欲不振など風邪に似た炎症症状もみられます。次第に、歩くと右下腹部に「ツン、ツン」と響くような違和感や痛みが感じられるようになり、数時間から1~2日の経過で痛みは右下腹部に集中してきます。(表1)
● 最初は「みぞおち」付近の痛み
● 次第に右下腹部へ移動
● 微熱、だるさなどの炎症症状
● 歩行時に右下腹部に違和感
● 右片足跳びで右下腹部に響く
● 仰向けに横になり右下腹部を押すと圧痛あり
● 左側には圧痛がない
● 白血球数が10,000個/ml3以上(医院で検査)
● CRPが陽性(医院で検査)
診断方法は?
仰向けになり、お腹を押すと右下腹部にだけに強い痛みがみられること、右下腹部を圧迫してから急に手を離すと反射的に痛みが強くなること、両足をまっすぐに伸ばした状態で仰向けになり、右下腹部を圧迫すると痛みと同時にお腹の筋肉が防御的に硬くなること、右足で片足跳びをすると右下腹部が響くように痛むこと、などが参考になります。病院での採血により、白血球数の1万個以上の軽度増加やCRP(C反応性タンパク)の陽性化で炎症の存在を確認できます。虫垂自体の腫れの程度やほかの疾患を除外するには、腹部の超音波(エコー)検査やCTが有用です。
子どもだけの病気ですか?
小学校高学年から30歳代に多くみられます。しかし、あらゆる年齢層で起こりえるため、50歳代や、さらには70歳の高齢者でも発症することもあります。男女の差はみられません。人口の20人に1人以上が、ある時点で虫垂炎を発症します。
左側の虫垂炎はないのですか?
本来の虫垂の位置から、お腹の左側の痛みを主訴とする虫垂炎はまずありません。人によっては大腸の壁に憩室(けいしつ)と呼ばれる袋状の凹みができることがあります。この憩室に細菌感染が起こると虫垂炎とほぼ同じ症状を生じます(憩室炎)。左大腸の憩室炎では、虫垂炎に似た痛みが左側腹部にみられます。
虫垂炎の治療法は?
抗菌剤の投与と手術による切除が基本です。手術は安全で、入院日数も短期間で済みます。日本と違い、ドイツでは術後3日目当たりで退院を勧められることも少なくありません。最近は体に負担の少ない腹腔鏡を用いた術式が試みられることもあります。また、標準である腰椎麻酔のほかに、ドイツでは全身麻酔を希望することもできます。
手術後は?
手術により炎症部位が取り除かれると、お腹の痛みは消失します。傷の部分の違和感が2~4カ月間続くこともあります。 虫垂自体を取り除くことによる医学的な不都合は特にありません。