ジャパンダイジェスト

日本人の糖尿病、ドイツの食事

どちらかというと痩せ型の同僚が糖尿病と診断されました。肥満でなくとも糖尿病になる確率は高いのですか? ドイツ滞在中、食事はどのような点に注意すれば良いでしょうか。

糖尿病とは?

すい臓で作られるインスリンの作用不足により起こる病気で、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が病的に高くなります。インスリンが全く作られなくなり、若年齢で突然発症する1型糖尿病と、生活習慣が大きく関与し、成人になってインスリンの効きが悪くなり(インスリン抵抗性)発症する2型糖尿病の2つのタイプがあり、最近増えている日本人の糖尿病の大半は2型糖尿病です。

2型糖尿病は肥満が多い?

インスリン抵抗性を来す最大の原因は、「肥満」です。実際、欧米の2型糖尿病はBMIが30を超える肥満と密接な関係があります。しかし、日本の2型糖尿病患者のBMIの平均は23前後で、仮に太り過ぎの基準をBMI25以上としても、2型糖尿病患者の4割にしか肥満がみられず、日本には肥満でない糖尿病患者が多いことが分かります。※BMI=体重kg÷(身長m×身長m)。

インスリン分泌も低下する日本人の糖尿病

日本人の2型糖尿病を調べてみると、インスリン抵抗性だけでなく、少なからずインスリン分泌障害も関わっていることが分かってきました。インスリンの分泌量が低下すると、軽度の体重増加やちょっとした過食でも血糖値の上昇に対応しきれなくなるため、糖尿病が発症しやすいと推測されています。

図1 日本人と欧米人の2型糖尿病

脳卒中や腎障害の多い日本人の糖尿病

糖尿病と合併する血管障害にも違いがあります。日本人の2型糖尿病では糖尿病性腎症が多く、腎不全で人工透析を導入する患者も年々増えています。それに対し、欧米では心筋梗塞や足の閉塞性動脈硬化症に悩まされている2型糖尿病患者が多くみられます。

どうして糖尿病が増えたのか?

まず、運動量の減少です。車の保有台数と糖尿病患者数が並行して増加していることも、運動量の変化との関係を示唆しています。2番目は食事組成の変化です。50年前と比べ、脂肪と蛋白の摂取比率が増えてきています。3番目は日本人の長寿化の影響です。長生きするほど、そして年齢が高くなるほど糖尿病に罹患する機会も増えるからです。4番目は診断法の進歩です。人間ドックや健診が早期発見に役立っています。

運動療法の基本

運動は、エネルギー消費とともに血液の流れを改善し、インスリンの働きを高めるのに役立ちます。体内の余分なブドウ糖の貯蔵場所は肝臓と筋肉です。特に、太ももは体の中で最も筋肉量の多い部位です。毎日の歩行・ジョギング・階段昇降・足の屈伸などの運動により太ももの筋肉に「貯筋」(福永哲夫・鹿屋体育大学学長)することは、ブドウ糖の貯蔵倉庫を増やすことにつながります。太ももが太くなることはマイナスではないのです。

食事療法の基本

栄養組成のバランスがとれた食事内容で、毎日の仕事量(体力消費量)に合わせたカロリーを摂るようにしましょう。インスリン分泌不全を伴っている場合、ちょっとした過飲食の持続が高血糖につながります。一方、 自己流の極端な減食は栄養のバランスを欠く結果を招くこともありますので、出来るだけ担当の医師や栄養士から栄養指導を受けるようにしましょう。

ドイツ食のカロリーと栄養素

一般的な日本食とドイツ食には、その栄養素の構成比と摂取量に大きな違いがあります。日本人の成人の1日当たりの摂取カロリーは男性約2000Kcal、女性約1600Kcal(最近の新潟県での調査報告)であるのに対し、欧米の先進国では3000Kcal近くもあります(国連食糧農業機関の資料)。そのため、当地のレストランで出てくる1人前の料理の量も大概多めです。

エネルギー摂取を栄養素別でみると、日本では炭水化物(穀類製品)の比率が依然60%近くを占めており、脂質は28%、蛋白質は15%前後です。一方、ドイツでは炭水化物の割合が40%、脂質が45%近くにも上ります。1g当たりの脂質のカロリー数は炭水化物の2倍以上あるため、同じ重量の食事をしたとしてもドイツ食の方が、摂取カロリーは多くなりがちです(表1)。

表1 ドイツの主な食品のカロリー数 

食品カロリー(Kcal)
Brötchen1個130 - 160
Vollkornbrot100 g220
Weißer Spargel100 g18 Kcal (皮なし)
Bratwurst100 g200 - 300
Schnitzel100 g100 - 300
Pommes100 g200
Bratkartoffeln100 g70 - 130
Altbier/Pils200 ml80
Wein200 ml140

ドイツ・ビールは高カロリー

美味しいビールは大きな魅力です。しかし、0.2Lグラスで80Kcal、0.5Lグラスでは200Kcalものカロリーがあります。ちなみに、茶碗一杯のご飯が160Kcal。ビールのカロリーの1/3は炭水化物で、残りの2/3はアルコールなので、直接的な血糖上昇への影響は軽微ですが、カロリーとしては体内に蓄積されます。ビールに含まれる栄養素は限られているため、食事代わりにすることはできません。

糖尿病の薬物療法

体内のインスリンの効きを良くする薬、インスリン分泌を促す薬、食べた食事の糖分の吸収を遅くする薬などがあります。ドイツでは、日本国内ではまだ市販されていない糖尿病薬や発売されたばかりの新しい薬も使われています。日本人の2型糖尿病ではインスリン分泌障害が少なくないため、補助的にインスリン製剤を用いることもあります。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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