健康(疾病)保険カードが必要不可欠
ドイツで診療を受けるには、公的保険であれば疾病組合(Krankenkasse)が発行する、プライベート保険であれば民間保険会社よって発行される、「疾病保険(以下、健康保険)カード」が必要です(図1)。ICチップ付きの健康保険カードには基本的な患者情報が保存されています。健康保険カードを持っていないとすべて自費払いとなります。
公的保険とプライベート保険の違い
ドイツのほぼ9割の人はAOK、DAKなど約200の疾病組合が運営する公的健康保険に加入し、残りの1割の人は約40ある民間保険会社の健康保険を利用しています。一般にプライベート保険の方が保険でカバーされる範囲が広く、入院の際の個室利用や、医局部長や大学教授に診てもらえるといったサービスが含まれます。
ドイツ国外への旅行の前に
自由に移動できる今の時代、ドイツの健康保険であっても欧州(EU)内旅行中の治療がカバーされる契約が多くなっています。とはいえ、加入した保険がEU内でも適用されるか、また、欧州域外への出張、日本への一時帰国の際はどうか、旅行前に保険の適用範囲を確認しておくことをお勧めします。特約の形で追加が可能なものもあります。
外来はプラクシス(開業医院)、入院はクランケンハウス(病院)で
通常の外来診療は、家庭医や専門医の開業医院(Praxis)で行われます。一方、日本で「病院」と訳されるクランケンハウス(Krankenhaus)は、救急外来や紹介患者を除けば主に入院治療のための施設です。外来患者の入院が必要になればクランケンハウスへ、退院すると再びプラクシスへ戻るという具合です。大学病院(Uni-Klinik)は主に紹介患者の診療のみで、救急を除けば一般外来の窓口はありません。
家庭医(ハウスアルツト)のしくみ
ドイツには「掛かりつけ医」である家庭医(Hausarzt/ärztin)の制度があります。家庭医は、日常の診療のみならず、他科への頼診や入院のアレンジもしてくれます。公的保険患者は、通いやすい家庭医を1人、自分の家庭医として疾病組合に登録することができます。
夜間や休日の急患は?
夜間や休日の急患は、クランケンハウスや大学病院の救急外来、市の救急診療所などで診てもらえます。健康保険カードと身分証明書(パスポート)を持参してください。入院治療の必要がないと判断された場合は、応急の治療を受けて自宅に戻ります。
救急車が必要!
緊急の時は電話番号「112」で救急車を呼びます。救急車には患者搬送を目的とするクランケンヴァーゲン(Krankenwagen)、日本の救急車に近いレットゥングスヴァーゲン(Rettungswagen)、さらに医師も同乗するノートアルツトヴァーゲン(Notarztwagen)の3種類があります。自分の住所(居所)、電話番号、症状(例えば、腹痛はBauchschmerzen)などを記したメモを用意してから電話をすると、慌てずに伝えられるでしょう。
外来の予約をする
プラクシスで外来を受ける場合は、まず電話で予約を入れます。直接行って、後日の予約を取ることも可能です。早朝から並べば早く診てもらえるという訳ではありません。領域によってはなかなか予約が取れない場合もあります。そのような時には、掛かりつけの家庭医に診療の依頼状(Überweisung)を書いてもらうと良いでしょう。
処方せんを持って薬局へ
医師の署名のある処方せん(Rezept)持って薬局(Apotheke)へ行きます。ジェネリック薬(後発医薬品、成分・薬効が同じ薬剤)の普及が進んでいるドイツでは、価格の安い製剤が選ばれる傾向にあります。処方せんに書かれた薬の在庫がない時は薬局で取り寄せてくれます。薬は日本のように必要な数だけではなく、箱ごと、または薬瓶ごと渡されます。薬の説明文はドイツ語ですので、事前に医師から具体的な服用の仕方を聞いておくようにしましょう。
表1 ドイツで病気になったら
・ まず電話で予約を入れる
・ 健康保険カードを忘れずに
・ 薬は薬局(Apotheke)で購入
・ 救急車は112番
*1 急患は病院(Krankenhaus)でも診てもらえます
*2 公的保険を扱っていない医院もあります
予防接種薬も薬局に受け取りに行く
初めての時はびっくりするかもしれませんが、予防接種を希望する際は、医師からの処方せんを持って薬局へ行き、そこで注射薬を受け取って、それを医師に持参して注射を受けます。流行期前のインフルエンザ(Grippe)の予防接種などを除き、通常の予防接種はこのような形で行われます。
ドイツでの子どもの予防接種は?
ドイツ(ほぼWHOの勧告に従ったもの)と日本の定期予防接種のスケジュールにはいくつかの違いがあります。日本に比べて、① 推奨接種の数(種類)が多い、②1歳前半までに済ませるものが多い、③ 混合接種が主(6種混合など)というのが特徴です。詳しくは、本誌 18 Juni 2010 Nr. 821『ドイツでの子どもの予防接種』をご参照ください。
予防接種のスケジュールが違うのはなぜ?
感染リスクが増える年齢に達する前のできるだけ早い時期に免疫を獲得するため、ドイツでは接種年齢が早くなっています。また、混合接種により予防接種スケジュールが単純化されれば、より多くの子どもが接種を受けられるようになります。1回目の接種で大多数の子どもに免疫が出来ても、獲得できない子どもが少なからずいる場合に2回目を行うことで、集団としてより確実に免疫を獲得できることを目指しています。どちらのスケジュールが良いと言うことはできませんが、迷う場合は医師に相談してみましょう。
外来診療の支払いは?
公的保険では、1年の四半期ごとの最初の受診の際に窓口で支払う金額(一律10ユーロ)と、薬局で購入する薬代の一部(5~10ユーロ)を除き、基本的に医療費はすべて保険でまかなわれます。
プライベート保険の患者には、診療の請求書が自宅に送られてきます。薬局での支払いは自分で行います。その後、請求書と領収書を民間保険会社に送り、医療費の全額もしくは一部を返金してもらいます。
入院期間が短い
手術の後、日本では少なくとも抜糸までは入院するものと考えますが、ドイツではそうとは限りません。虫垂炎の手術でも特に合併症がなければ、3~4日で退院となります。入院期間は日本より短いと考えて良いでしょう。入院中も、必ずしも日本のように至れり尽せりとは行かないこともあります。
さて退院、お礼は?
日本では退院時に菓子折りを持ってご挨拶をしたり、手術を担当してくれた先生にお礼の品を……というような話を耳にします。ドイツでも、特に親切にお世話になったと感じたら、ナースステーションに10~20ユーロ程度のお茶代を渡すこともあるようです。プライベート保険の患者の場合、医局部長や教授は健康保険の規定内の料金(謝礼)を請求書に含めることができるので、その上さらにお礼をする必要はなさそうです。
・ 外来受診は予約が原則
・ 家庭医(ハウスアルツト)制度がある
・ 病院(クランケンハウス)は入院治療が主体
・ 一般に入院期間が短い
・ 薬は、箱・瓶ごと処方される