中学生の子供が家に帰るとコンピューターゲームばかりして、夕食を一緒に食べないこともあります。最近ではインターネット依存やゲーム障害という言葉があると聞きましたが、その心配はないでしょうか?
Point
- ゲームに没頭、プレイ時間を管理できず、止めるとイライラ感が
- 心身の健康に支障が生じ、人間関係、社会生活にも影響が出ます
- 嗜癖(しへき)行動の異常と考えられています
- ゲームを行う際の自己ルール作りが大切です
- 背景因子の改善も含め、専門家による対応が必要なことも
新しい病名「ゲーム障害」
● WHOが追加予定
医療機関の診療記録の管理や、病気の頻度、死因を国際比較する時の世界共通の分類が国際疾病分類(通称ICD分類)です。「ゲーム障害」(原文でGaming disorder、ドイツ語でComputerspiel-Abhängigkeit、Computerspielesucht、Internetsucht、Videospielsuchtなど)という病名が2018年内に改定される疾病分類(ICD-11)に新たに加えられる予定です。
● どのような病気?
「ゲーム障害」はコンピューターやスマートフォンのゲームに極端に没頭し、ゲームをしたい気持ちが最優先され、日常や社会生活にも影響が出てくる状態です。嗜癖(Abhängigkeit)による行動障害として、ギャンブル嗜癖(障害)と同様の疾患として加わることになります。
● 診断の基準は?
WHOの草案では①ゲームを行う回数、時間、中止することを自分でコントロールできない状態②ゲームがほかの日常的活動より優先される場合③ゲームへの没頭が生活や周囲との関係に悪影響が出ていても止められず、さらに熱中するといった状況のいずれかが1年以上続いている場合を「ゲーム障害」と定義しています。
● 社会問題化が背景に
ゲームへの嗜癖行動は近年世界中(特にアジア諸国)で、「ゲーム依存症」「ネット廃人」「インターネット中毒」「インターネットゲーム障害」「オンラインゲーム依存症」などとして社会問題化してきました。ドイツでも同じで、ドイツ厚生省は「薬物と中毒(依存)に関する報告書(仮訳)」(2016年)の中でコンピュータゲーム障害やインターネット依存の問題を取り上げています。
● ゲーム障害の頻度
診断の基準により異なりますが、リューベック大学によるインターネット依存の頻度調査では、14〜64歳の1.0〜1.5% (PINTA Studie 2011年の報告)、また先の「薬物と嗜癖の報告書」によると全年齢でみると約0.8%、中学3年生以下だけでは約1.2%がインターネット依存の状態にあると推測されています。
● 増大する子供のインターネット利用時間
2016年に12〜25歳のドイツの青少年を対象に調査を行ったDAK(公的疾病保険組合の一つ)の報告書「Game over」では、WHOの基準とは異なるものの、男子は12人に1人(8.4%)、女子の5.5%がコンピューターに依存した生活を送っているとされています。
● ゲーム業界の反応
WHOの動きに対し、ゲーム業界の団体「エンタテイメント・ソフトウェア協会(EPA)」は「ビデオゲームに中毒作用はないと客観的に証明されている」と反対声明を出しています(朝日新聞1月5日)。しかし、最近のゲームソフトには難易度を次第に上げていったり、アイテムの購入などの付加要素を併せ持ったものも少なくなく、ゲーマーによっては嗜癖行動に繋がりやすくなっていると考えている人が多いのも事実です。
ゲーム障害への過程と兆候
● 段階的な幾つかの変化がみられます
①コンピューターゲームに夢中になる②ゲームをしていないとイライラしたり、不安を感じる(この時点での注意が必要です)③ゲームの興奮や達成感を求めて、刺激のある内容や難易度の高いゲームを求めるように④ゲームから離れにくくなる⑤以前の趣味や興味対象への興味がなくなる⑥ゲームを中断した方が良いと理解しつつも、さらに長い時間没頭するように⑦実生活での不満をゲームをして回避するようになる⑧ゲームへの没頭が際限なくなる⑨ほかの人との関係、職場や学校などでの立場が脅かされるように(オーストリアの新聞、Der Standard 2017年12月の特集記事より抜粋意訳)。
ゲームを楽しむ人への助言
● 依存兆候の有無を振り返ってみましょう
ゲームに熱中しすぎて知らぬ間に自分や周囲の人の生活に支障をきたしていないか振り返ってみましょう。ゲームに費やす時間が長すぎないか、家庭での生活(食事の時間、役割分担、家族での外出など)に影響していないかを考えてみましょう。ドイツのカリタス(Caritas)が挙げている自己チェックポイントを下記に示します。
ゲームに没頭している人のための自己点検
● ゲーム時間を管理しましょう
欲求の赴くままに漠然とコンピュータゲームを続けるのではなく、自分でコンピューターを操作する時間を管理しましょう。タイマーやシャットダウンを用いるのも一案です。
● 背景も考えてみましょう
なぜ、ゲームにのめり込むようになったのか、経緯を考えてみましょう。そして生活の中や交友関係で何を変えれば良いのか考えてみましょう。自分で解決法が見出せない場合には、ドイツには専門家による相談の場が設けられていますので、掛かり付け医(Hausarzt/-ärztin )や臨床心理士(Psychotherapeut)に一度相談してみるのも良いでしょう。
Q&A
● なぜゲームをすることに依存性があるのですか?
コンピューターゲームの依存者がゲームをする際は、薬物中毒の患者が薬物を摂った時と同じような神経学的影響があると考えられています。ゲーム中での勝利が達成感を生み、それが常習化することによりさらに強い刺激を必要とする状態にはまり込んでいくためと考えられています(ボーフム・ルール大学のBert te Wildt教授)。
● 皆がゲーム障害に陥りますか?
ゲームをする人全員でなく、一部の人だけに何らかの影響がみられています(統計調査では常にゲームをする人の100人に約1人、すなわち約1%です)。
● インターネットで脳機能は低下しますか?
コンピュータで文章を書くようになってから手書きの漢字が書けなくなったという話をよく耳にします。実際、ドイツのマンフレッド・スピッツァーは、コンピュータ類の使い過ぎは脳機能を低下させるという内容の「デジタル痴呆」(Digitale Demenz)という本を書いています。しかし、脳科学者はデジタル機器によって実際に脳機能が衰退(痴呆化)するという証拠はないと反論しています(WELT 2013年1月2日のインタビュー記事)。
● ゲーム障害で命を落とす危険は?
何よりもゲームへ集中することが優先されるため、心身の健康が損なわれることも。実際、寝食を忘れて50時間以上連続でゲームに没頭し心臓発作を起こして死亡した例などが相次いで報告されています。
● ゲーム障害は精神疾患ですか?
米国では精神科学会がゲーム依存に取り組み、WHOは「精神障害・行動障害・神経発達障害」の一病名として追加(予定)、ドイツの厚生省は「薬物および中毒(依存)」の中で議論をしています。ゲーム障害でも①耐性(より強い刺激、すなわち難易度の高いゲーム)②離脱症状(ゲームを止めると心身症状が現れる)③抑制喪失(自分の意思で止めることができない)などギャンブル依存などと同じ依存症患者の特徴がみられます。一方、ゲームに依存してしまう背景や原因を議論する研究者もいます。
● 強制シャットダウンという手段は?
韓国では、2011年にシャットダウン法という法律(16歳未満の子供が午前0時から午前6時までオンラインゲームを禁ずる法案)が成立しています。