ジャパンダイジェスト

日本とドイツの花粉症

日本では花粉症がひどかったのですが、ドイツに来てからまだ症状がありません。花粉症は治ったのでしょうか?

ドイツで花粉症が治癒?

残念ながら、そうとは言えません。最近の日本の花粉症は、一般にスギ花粉(一部はヒノキ花粉)に対する過敏反応が引き起こすアレルギー性鼻炎や結膜炎を指します。スギ(ドイツ語ではJapanische Zeder)は日本固有の針葉樹で、屋久島から東北地方まで広く分布していますが、ドイツにはスギの分布はなく、アレルギー反応の抗原となる花粉が飛散しないのでスギ花粉症は起こらないのです。ヒノキもないため、ヒノキによる花粉症も起こりません。日本からドイツに来た場合、いわゆる花粉症に対する転地療法を実践したのと同じことになると考えてください。

ドイツにも花粉症はありますか。

ヨーロッパでは、イネ科の草(Gräser)とシラカバ(Birke)の花粉症が知られています。イネ科植物の中でも牧草として広く栽培されているカモガヤの花粉は、5月から8月初旬が飛散のピークです(図1)。イネ科植物は花粉相互の共通抗原性が強く、実際はどの植物の花粉が原因か分からないことが多いため「イネ科花粉症」と呼ばれます。

代表的な花粉の飛散時期

シラカバの花粉は4月から5月初めがピークです。ドイツでは五月祭にシラカバの葉や花で飾り付けたマイバウム(Maibaum)を広場に立てて祝いますが、アレルギーを持つ人には恐怖ですね。花粉の飛散時期はその年の気象条件に大きく左右されるので、新聞の花粉情報などが役に立ちます。

スギ花粉症の人は、他の花粉症にも罹りやすい?

答えはイエスとノーです。まずスギ花粉症の人の半数以上は、ヒノキ花粉に対する抗体を持っており、両方の花粉症を煩う場合が多いようです。複数の花粉に過敏性を示すことを重複感作と言い、スギとヒノキの重複感作は花粉の中のアレルギーを起こす抗原(アレルゲン)に共通性があることに関与しています。しかし日本でスギ花粉症だった人がドイツに来るとイネ科植物花粉症に必ずなるかというとそうではありません。問題は特定の花粉にこれまでどれだけ長く接してきたか、また現在どれだけの量の花粉が飛散しているかという環境因子に関係 しています。

どうしてある年突然、花粉症になるのでしょうか。

花粉症は抗原抗体反応(アレルギー反応)の代表疾患です。私たちの体は異物タンパクが侵入すると外敵から身を守るためそれに対する抗体を作ります。これを免疫反応といいますが、私たちが抗原である花粉を体内に取り込んだ場合も、体は同じくその花粉に対するIgEという抗体をつくります。ただ、この抗体があるからといってすぐに発症するわけではありません。毎年花粉を吸って抗体が作られ、その量が一定量を超えた時にはじめて症状が出ます。スギ花粉の抗体は小中学生や、なんと赤ちゃんからも見つかっています。

なぜスギ花粉症の人が増えているのでしょうか。

現在、日本人の5人に1人が花粉症といっても過言ではありません(表1)。現代の国民病とも言えるスギ花粉症が問題となってきたのは1979年頃からですが、これは抗原であるスギの花粉量が爆発的に増えたからです。第2次大戦後、復興のために全国で木々が伐採され、1950年代に大々的にスギが植林されました。1980年前後は、樹齢から見てこれらのスギがちょうど花粉を飛ばせるようになった時期です。スギ花粉の飛散量は現在も増加傾向にありますが、これらは戦後のスギ植林の結果とも言えます(図2)。

表1 スギ花粉症の有病率(都道府県有病率)
山梨
東京
大阪
北海道
沖縄
26.9%
20.4%
14.3%
2.9%
0.6%
最近の首都圏でのアンケートでは、花粉症と診断された人が21%、自覚症状からそう思う人は19%と約4割もの人が花粉症らしいという結果が出ています。

スギ林面積

花粉症というと、戦前は多くの子どもにみられた回虫などの寄生虫がなくたったためだとか、食事の欧米化が原因などとも言われますが、確かな証拠はありません。ただ車が増えたため、路上に落ちた花粉が何回も空中へ巻き上げられる、といった環境問題が一因を担っていることは確かです。

これって花粉症?

ドイツの冬は寒いですね。暖かい家から外に出ると、鼻水や涙が出て止まらなくなったという経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。花粉症かと疑われる方もいますが、これは鼻粘膜が寒さに刺激されて起きる反応です。私たちの鼻粘膜は敏感で、寒冷刺激に反応することがあります。

通年性アレルギー性鼻炎の原因の1つに、ダニアレルギーがあります。抗原となる家ダニは、家屋の暖房状況の改善に比例して増えています。ドイツではよくハウスダストと言いますが、これは家中の塵のことで、その主成分はダニの糞や死骸とされています。季節性のスギ花粉症の人が、ダニによる通年性のアレルギー性鼻炎を合わせ持つこともあります。

風邪とどのように区別できますか。

風邪は数日で治りますが、花粉症はその花粉が飛んでいる期間、症状が続きます。目のかゆみやさらさらした水鼻は花粉症の特徴です(表2)。熱が出れば風邪といえますが、花粉症で鼻がつまり、喉がやられて風邪になることもありますのでご注意を。

表2 花粉症の主な症状
・ くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ
・ 全身症状
・ 集中力の低下、だるさ、イライラ感

花粉症は遺伝するのでしょうか。

花粉症などのアレルギー疾患には「家族集積性」があると言われています。しかし共通の生活歴が長い家族内では、原因が環境因子(花粉、食事など)によるものか遺伝的素因(体質)によるものか区別が難しい場合が少なくありません。花粉症の原因として抗原抗体反応を起こしやすい体質の関わりも考えられていますが、花粉症になりやすい人の遺伝子多型(タイプ)はまだ見つかっていません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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