気管支ぜんそくはどういう病気ですか
気管支ぜんそく(Asthma)は、刺激により気管支が過敏に反応して気道腔が狭くなり(図1)、突然の咳とともに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜいめい)が生じる病気です。さらに喘鳴、息切れ、咳などの症状がひどくなり、呼吸が苦しくなった状態をぜんそく発作といいます(表1)。発作がひどくなると、横になっていられず、前かがみに座って呼吸しなければならない状態になります。日本での推定患者数は約300万人と言われています。患者数はこの10年間で約50%も増加しています。
発作時には平滑筋のけいれんにより、軌道が狭くなります(A)。
また中央の層が炎症で腫れたり、時には粘液のかたまりが気道をふさいでしまいます(B)。
表1 ぜんそく発作の症状 | |
・突然出現する息苦しさ ・ぜーぜー、ヒューヒューという喘鳴(ぜいめい)音 ・咳 |
症状や発症時期はみな同じでしょうか?
ぜんそく発作の重症度は様々で、他人が気付かない軽度なものから、中には死に至るものまで様々です。季節の変わり目だけに発作を繰り返す人もいれば、一年中喘鳴が続く人もいます。季節的には、梅雨時、秋口、台風が近づいている時に起きやすく、咳の発作は夜間、早朝に出現しやすいとされています。
ぜんそくを惹き起こす原因は何ですか?
ぜんそくは、慢性的な炎症を起こした気道が、冷気やタバコの煙などさまざまな刺激に対して過敏に反応し、けいれん・収縮することでおこります(図1)。気道の炎症の原因として、アレルゲン(アレルギー反応を引き起こす原因物質)や大気汚染など生活環境からの刺激物質が知られています。小児のぜんそく患者はアトピー体質や他のアレルギー疾患を併せ持つことが少なくありません。
どんな物質がアレルゲンになりますか?
家のホコリ、ダニの死骸などのハウスダスト、カビ、花粉、ペットの毛、ヒヨコの羽などが知られています。また、食物や薬物が原因となることもあります。食物は、そば粉、小麦粉、卵、牛乳、チョコレート、ピーナツ、魚介類や野菜など多岐にわたっています。枕のそば殻や、もみがら、ふとんの羽毛もアレルゲンになります。そば殻が原因のぜんそくを 「そばがらぜんそく」、鎮痛解熱薬によるものを「アスピリンぜんそく」と呼んでいます。
急激な気象の変化も発作の原因になりますか?
気道の慢性的な炎症により、一旦過敏性が増してしまうと、わずかな、しかもあらゆる刺激に対し過度に反応し、ぜんそく発作を起こすようになります。例えば、風邪、細菌やウィルス感染による気管支炎、急激な気温低下、心理的ストレス、タバコや線香の煙、月経や妊娠、さらに激しい運動や飲酒、満腹状態などでも発作が誘発されることがあります(表2)。運動ぜんそくは小児に多くみられます。
表2 ぜんそくの危険因子 | |
発症にかかわる因子 | |
素因 | アトピー体質 |
原因となる因子 | 室内のハウスダストやそば殻、屋外の花粉、アスピリンなど |
誘発する因子 | 食事、タバコの煙 |
ぜんそくの憎悪因子 | 呼吸器感染症、運動、気象の変化、季節の変わり目、食品、β遮断薬やアスピリンなどの薬、心理的ストレス |
(厚生省免疫アレルギー研究班「ぜんそく予防管理ガイドライン」1998年より改変)
アスピリンぜんそくはどんな病気ですか?
アスピリンぜんそくは大人の難治性ぜんそくに多く、成人ぜんそくの約10%を占めています。その特徴は、① 大人になってから発症する ② 血液のアレルギー検査が陰性 ③ ハナタケ(鼻ポリープ)などの鼻疾患を併発する ④ どちらかというと女性に多い、などです。アスピリンだけではなく、その他の解熱剤や痛み止めの薬(鎮痛解熱剤)でも起こり、通常服用後 15~20分で発作を起こします。
どんな診断方法がありますか?
虚気管支ぜんそくの多くは、喘鳴の状態、咳の出方、発作の有無、本人や家族のアレルギー体質の有無などにより診断できます。さらに細かい検査法としては、血液検査や皮内テストによるアレルゲンの推定、アレルゲンによる誘発試験、喘息の重症度を評価するための呼吸機能検査、他の肺疾患との鑑別が必要な場合の胸部レントゲンやCT検査などがあります。
気管支ぜんそくは生命にかかわる病気ですか?
大抵の場合、普段は何の症状もありませんが、わずかな気道刺激でぜんそく発作を起こします。そして、重症の発作(重積発作)では死に至ることもあります。日本の厚生労働省の調べによると、毎年5000人以上の方がぜんそくで亡くなっています。過去20年間の傾向としては、15~34歳の若年層の死亡者が増加していることです。これはぜんそく発作を軽い病気と考えて、受診が遅れたことも関係しているようです。
子供が風邪を引いたとき、ゼーゼー音を伴う咳をしますが大丈夫でしょうか?
1~2歳の幼児が風邪や気管支炎にかかった時にゼーゼーとぜんそくのような呼吸音を発することがあります。風邪が治ると喘鳴もうそのように消えてしまいます。これは「ぜんそく様気管支炎」と呼ばれています。気道が狭くなり、呼吸抵抗が増大したためゼーゼーという音が出ているのです。1割ぐらいはその後、本当のぜんそくに移行するとも言われています。
治療時の目標は?
ぜんそく治療の目標は、日常生活や運動に支障が出ないよう呼吸機能をできるだけ正常に保つことです。出来るだけ少ない量の薬でコントロールし、長期にわたり発作を起こさない状態を維持することが大切です。子どもの気管支ぜんそくでは体力がつくに従って自然に症状が出なくなることが少なくありません。
ぜんそくの薬にはどのような種類がありますか?
気管支ぜんそくの治療薬は、発作を起こさせないための薬と発作時に症状を抑える薬の2つに分けられます。ぜんそくが慢性の気道炎症に起因するため、治療には抗炎症作用が強く、全身への副作用の少ない吸入ステロイド薬が中心に用いられます。狭くなった気道を拡げるテオフィリンや抗アレルギー薬なども吸入ステロイド薬を補助する治療薬として用いられます。吸入ステロイド薬の効果を得るには数日以上吸入することが必要です。発作のない時でも治療を続けることが大切です。発作時の気道狭窄に対しては、短時間で気管支を拡張させるβ刺激剤の吸入薬が用いられます。両者を上手に組み合わせることにより、大抵の発作はおさまります(表3)。
表3 代表的な気管支ぜんそくの薬 | |
・吸入ステロイド薬 ・β(ベータ)刺激薬 ・テオフィリン製剤 ・抗アレルギー薬 |
日常生活で注意すべき点を教えてください
アレルゲンが明らかな場合には、その原因を取り除くか、避けることが大切です。例えば、ハウスダストに対してはダニ対策として室内の清掃や寝具の管理を、蕎麦殻ぜんそくの人は枕の選択に注意が必要です。犬の毛が原因となっている人は、愛犬と今後どう付合っていくか真剣に考えなくてはなりません。アスピリンぜんそくの人は、新たな病院を受診するごとに必ず担当医師にその旨を伝えてください。
家庭での自己管理として、自分の症状や自宅での呼吸機能の測定値(ピークフロー値)を記録するぜんそく日誌をつけると参考になります。これにより、自分の呼吸機能の状態を知ることができ、治療が十分かを判断することもできます。また、仕事や休暇で旅行に出る際には、どんなに調子が良くても使用している薬剤を必ず持参しましょう。
減感作療法(Desensibilisierung)とは何ですか?
ぜんそくの原因となるアレルゲンが既に判明している場合に用いられます。少量のアレルゲンの濃度を次第に高くしながら、繰り返し経口または皮内注射で投与(日本は皮内注射のみ)することにより、アレルギーの即時型反応を弱める治療法です。即効性はなく、効くメカニズムも良く分かっていませんが、100年近い実績があります。治療に長期間を要する、約半数の人にしか効果がみられないなどのデメリットもありますが、人によっては有効な原因療法の1つと言えます。発病後の早い時期に開始するほど効果が高いと言われています。
ぜんそくの薬の使い方はドイツと日本では異なりますか?
日本、ドイツともにぜんそく治療に関しては治療指針(ガイドライン)のようなものがあり、長期管理のための薬の使 い方や発作時の対処法が示されています。吸入ステロイド薬を中心とした基本的な薬の使い方などは日本とドイツで大差がありません。従って、治療内容が大幅に異なることはありません。
ドイツの病院を受診する際に気を付けるべき点を教えて下さい
ぜんそく発作が続いている時は、その典型的な症状から診断することはそれほど難しくありません。言葉がうまく通じなくとも、適切な治療が受けられるでしょう。治療中の方は、服用している薬を必ず医師に知らせてください。軽い症状の場合や夜間から朝方だけ症状が出て、病院に行く頃には良くなっているような時には、発作時の様子(いつ、何がきっかけで、どの位の時間、どのような症状が)をある程度詳しく説明してください。