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mizkan
Mi. 02. Dez. 2020

イスラム過激派テロに苦悩する独仏

今年の秋はフランス、オーストリア、ドイツでイスラム過激派が無差別に市民を殺傷する事件が相次いでいる。これらの事件は、欧州諸国の治安当局が過激派を十分に把握していないことや、イスラム教徒の社会への統合が遅れていることを浮き彫りにした。

10日に開かれたオンライン会議で話すメルケル首相10日に開かれたオンライン会議で話すメルケル首相

風刺画をめぐる対立がエスカレート

フランスでの事件の引き金となったのは、またもやイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画と表現の自由をめぐる議論だった。今年10月16日にパリ近郊の中学校の歴史教師サミュエル・パティ氏が、18歳のイスラム教徒によって路上で首を切断されて殺害されるという事件が起きた。犯人は逃亡を試み、警察官に射殺された。

パティ氏は授業で表現の自由について教えるために、ムハンマドの風刺画を生徒たちに見せていたという。イスラム教徒の生徒の父親はこの行為に憤慨して、ソーシャルメディアにこの教師の罷免を求めるメッセージを公開していた。

犯人はモスクワ生まれのチェチェン人で、2007年に家族と共にフランスに移住し亡命を申請していた。この男がパティ氏に関するメッセージを見て、犯行に及んだのだ。犯人はシリアのイスラム過激派と接触しており、ソーシャルメディアにヘイトスピーチを掲載するなど過激化の兆候を見せていたが、治安当局の危険人物に関するデータバンクには登録されていなかった。

この事件の約2週間後には、南仏ニースの教会で、21歳のチュニジア人が市民3人をナイフで殺害した。男は今年9月に船でイタリアのシチリア島に上陸した後、フランスに移動していたが、警察や入国管理当局によって全く把握されていなかった。マクロン大統領は、パティ氏殺害事件の後、対テロ部隊の兵士を増員し警戒態勢を強化していた。だがチュニジア人のテロリストは、大統領の対応をせせら笑うかのように、ニースの祈りの場でキリスト教徒たちに憎しみの刃を向けたのだった。

オーストリアにも飛び火

11月2日にはウィーンの中心街で北マケドニア出身のイスラム教徒がナイフで市民4人を殺害し、23人に重軽傷を負わせた。20歳の犯人は、過去にテロ民兵組織「イスラム国(IS)」の戦列に加わるためにシリアへ出国することを希望したため、治安当局によって危険人物として把握されていた。オーストリアでイスラム過激派が無差別テロを行ったのは、初めてのことである。

またドイツでは10月4日にシリア出身のイスラム過激派がドレスデンで観光客2人にナイフで襲いかかって1人を殺害し、もう1人に重傷を負わせた。20歳の犯人は暴力行為の前科があり、事件の6日前に刑務所から出所したばかりだった。

EUはシェンゲン地域外縁の警備を強化へ

今の欧州の状況は、悪夢の2015年に似ている。この年の1月には重武装したテロリストが風刺雑誌シャルリ・エブドの編集部で12人を射殺した。同年11月には、ISのテロリストがパリの劇場やレストランを襲って137人を殺害し、412人に重軽傷を負わせた。今回の事態を重く見たドイツのメルケル首相、フランスのマクロン大統領、オーストリアのクルツ首相は、11月10日にイスラム過激派によるテロに関するオンライン会議を開いた。

3人が会議後の記者会見で公表した内容は、具体性に乏しかった。テロ対策は犯罪捜査に関わるため、今後の捜査体制の強化については公表を避けたのだろう。メルケル首相は、「シェンゲン地域の国境監視を強化して、外国人に対するチェックを厳しくする」と語るに留めた。マクロン大統領も、「シェンゲン域内で市民が自由に移動できる状態を維持するには、外縁部の警備を強化する必要がある」と述べた。

欧州連合(EU)は来年5月にシェンゲン圏への入域監視を強化することなどを盛り込んだ改正案を発表する予定だ。フォンデアライエン欧州委員長は、11月末までに移民の若者たちの社会への統合を促進し、過激化を食い止める計画をまとめる方針を明らかにした。

二つの格差が生むイスラム過激派問題

イスラム過激派問題という欧州の病弊は、二つの格差問題と表裏一体である。一つは欧州と中東・アフリカ地域の間の格差。中東やアフリカからは、戦乱や貧困、気候変動による干ばつ、人口爆発を逃れて欧州を目指す人々が今後も増えていく。欧州に比べて出生率が高い発展途上国では、仕事や住宅を得られずに、新天地へ向かう若者が後を絶たない。

もう一つは、欧州域内での格差。一部の若者は、安定した職を得られず貧困層が多い地域から脱出できない。彼らは疎外感と不満を募らせ、キリスト教の価値観を基礎とする白人社会に対する怨えんさ嗟を強めていく。ソーシャルメディアは過激化への近道だ。預言者の風刺画は彼らにとってはタブーだが、フランス社会の主流派にとって表現の自由の抑圧はタブーである。「文化の衝突」を解決するための糸口は、まだ見えない。

将来も難民数が増加することを考えると、各国政府は異文化圏からの移住者の社会への統合の仕方を改善するために本格的な対策を取る必要がある。さもなくば、パリやウィーンのような惨事が繰り返される恐れがあるだろう。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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