今月初め頃、メルケル首相はほっと胸をなでおろしたに違いない。大連立政権に参加している各党は、数週間にわたる激しい応酬の末、二酸化炭素(CO2)を削減し、地球温暖化を防止するための環境エネルギー政策(Klimapaket)の実現に向けた一連の法案を連邦議会で可決させることに成功したからだ。
具体的には、暖房用の熱と電力を同時に供給できるコージェネ型の発電所(KWK)の建設がさらに推進される。また太陽光で作られた電力への振興金の将来の水準について合意し、再生可能エネルギー促進法を更新することができた。
ドイツはこれらの施策によって、2020年までにCO2排出量を1990年に比べて40%減らすことを狙っている。その目玉は再生可能エネルギーの促進だ。ドイツエネルギー水道事業連合会(BDEW)によると、昨年のドイツの再生可能エネルギーの発電量は前年比で20.9%も増えている。
ドイツが欧州連合(EU)の議長国だった時に発表したCO2排出量の削減計画は「トリプル20」とも呼ばれる。20年までにEU域内全体で、CO2排出量を90年に比べて20%減らし、再生可能エネルギーが消費電力に占める比率を20%まで高め、エネルギー消費量を20%減らすことを目指しているからだ。
欧州委員会のバローゾ委員長によると、CO2削減のためのコストは年間600億ユーロ(約9兆6000億円)で、EUの国内総生産(GDP)の0.45%に相当する。これは、EU域内に住む人々が、一人当たり毎週3ユーロずつ負担するのに等しい。ドイツ産業連盟(BDI)のユルゲン・トゥーマン会長は、「この計画によって、欧州とドイツに巨額の追加コストが生じ、産業基盤が侵食される危険がある。特にエネルギー集約型の産業にとっては大きな脅威であり、数百万人分の雇用が脅かされる」として、EUの提案を激しく批判した。
今回可決された再生可能エネルギー促進法の改訂版についても、経済省やキリスト教民主同盟(CDU)の一部の議員からは、「消費者の負担が大きすぎるので、太陽光発電への振興金をもっと大幅に減らすべきだ」という意見が出ていた。政府は風力や太陽光などで作られた電力について、他のエネルギー源で作られた電力よりもはるかに高い値段で買い取ることを保証している。そのための振興金は、06年の時点で58億1000万ユーロ(約9296億円)。過去6年間で4.9倍に増えている。この振興金は、我々消費者が毎月支払う電力料金に上乗せされている。ドイツの電力が日本や米国に比べて高い理由の一つはそこにある。電力代の40%は税金なのだ。
多くの市民はあまり関心を持っていなかったようだが、今回の法案可決で我々は今後、地球温暖化に歯止めをかけるためのコストをズッシリと感 じることになる。
20 Juni 2008 Nr. 719