米国発のグローバル金融不安に対処するため、ようやく西欧諸国の足並みが揃い始めた。今月12日にメルケル首相は「金融市場安定化基金」を設置し、銀行に対し4000億ユーロ(約60兆円)という巨額の保証を行う方針を発表した。さらに政府は経営難に陥った銀行に対して最高700億ユーロ(約10兆5000億円)の公的資金を注入し、一時的に株主となって銀行経営に関わる。
政府が異例のスピードで法案をまとめあげ、銀行救済のために1000億ユーロ(約15兆円)もの追加債務を行うことを決めたことは、金融システムがいかに危険な状態にあるかを示している。そのことはシュタインブリュック財務相の「Es ist Gefahr im Verzug(危険な状態なので、遅れは許されない)」という言葉にも表われている。
その最大の理由は、銀行が貸し倒れを恐れて互いに資金の貸し借りを行わなくなってしまったことだ。資金は経済の血液であり、その流れが滞った場合、実体経済にも深刻な影響が及ぶ。中小企業の中には、銀行の貸し渋りによって資金繰りが苦しくなる会社も現われるかもしれない。金融サービスの最大の財産は「信用」だが、サブプライム関連投資が今後、各金融機関にどのような損失をもたらすかは誰にもわからないので、現在のマーケットでは信用が大幅に低下している。このため銀行は戦々恐々となり、お金を貸そうとしないのだ。
今回の金融不安は、欧州連合(EU)加盟国政府がグローバルな危機対応に慣れていないことを暴露した。当初、各国の足並みはバラバラだった。メルケル首相は、今月初めにアイルランド政府が個人預金を無制限に保証する法律を施行させたことを強く批判した。だがその数日後には、ミュンヘンのヒポ・レアル・エステートが倒産しそうになり、金融システム全体に大きな影響が及ぶ危険が高まったので、個人預金の全額保証を発表した。市民の不安を解消するためとはいえ、ドイツの危機対応には一貫性が感じられない。
メルケル首相はまた、フランスが提案していた「EU不良債権買い取り機構」の設立を拒否し、自国民の預金だけを保証する方針を打ち出したため、フランスや英国政府から「EU全体のことも考えるべきだ」と強く批判された。ドイツは共同買い取り機構が設立された場合、最大の経済パワーとして多額の資金を拠出させられることを恐れたのである。「ドイツ国民の血税で、なぜ英国やイタリアの銀行の不良債権を買い取り、救ってやらなくてはならないのだ」という主張だ。
EU各国政府が今月中旬にそれぞれ発表した銀行救済策によると、総額1兆ユーロ(約150兆円)もの資金が金融機関に投じられる。欧州の歴史で例のない出来事だ。だが米国では、ローンを返済できない市民が今後も着実に増えるので、証券化されて世界中にばらまかれた不良債権は今後も増加する可能性が高い。各国の株式市場で株価は一時的に上昇したが、危機が完全に去ったと考えるのは早すぎる。日本のバブル崩壊よりもはるかに深刻なこの金融不安に、各国政府が打ち勝つことができるのは、いつの日になるのだろうか。
24 Oktober 2008 Nr. 737