4年前にバイエルン州出身のヨーゼフ・ラッツィンガー氏がローマ教皇になった時、ドイツ人たちは盛大に祝福した。だが教皇ベネディクト16世は今年に入って、重大なミスを犯していたことが明らかになった。
カトリック教会には様々な宗派があるが、「聖ピウス10世・同胞団」はその中でも極めて保守的なグループ。バチカン教皇庁は1988年にこのグループが分派的な傾向を示しているとして、4人の司教を破門していた。ベネディクト16世は先月、この4人の破門を解除してカトリック教会に迎え入れることを決めた。
ところがその内の1人リチャード・ウィリアムソン司教が、ナチスのユダヤ人大量虐殺を矮小化する発言を繰り返していたことが明らかになったのだ。彼は89年4月にカナダで、「ホロコーストはユダヤ人の作り話。アウシュビッツではユダヤ人は1人もガスで殺されていない。すべては嘘だ」と発言。また今年1月末にはスウエーデンのテレビ局に対するインタビューの中で、「アウシュビッツにはガス室はなかった。ナチスの強制収容所で殺されたユダヤ人の数は20万~30万人」と語っている。ドイツでは、ナチスの犯罪を矮小化する発言を行うことは「国民扇動罪」に当たる。ベネディクト16世は、極右的な思想傾向を持つ人物をカトリック教会に迎え入れたわけである。
これについてドイツ・ユダヤ人中央評議会のザロモン・コルン副会長は、「ローマ教皇は、このような人物をカトリック教会に迎え入れることで社会復帰させた。博識のローマ教皇が、ウィリアムソン司教の背景について知らなかったとは考えられない」と述べ、ベネディクト16世を強く批判した。イスラエルのユダヤ教関係者は激怒してバチカンとの対話を凍結。ドイツのカトリック教会の幹部の間からも、今回の措置に困惑する声が聞かれる。
ウィリアムソン司教がホロコースト否定論者であることは、宗教界では広く知られていたことで、インターネットで検索するだけで誰にでも簡単にわかるほど。バチカンの教皇庁がこの司教の思想背景について全く知らなかったとは考えにくい。
もともとユダヤ人たちとバチカン教皇庁の関係は険悪だった。バチカンは65年まで、「ユダヤ人はキリストの磔刑について罪はない」と公式に認めなかった。一方、イスラエル人たちは「ローマ教皇庁は第2次世界大戦中にナチスのユダヤ人迫害を強く批判しなかった」と批判してきた。
このため故ヨハネ・パウロ2世は、ユダヤ教徒との関係を改善するために対話を深めようとしていたが、今回のウィリアムソン司教問題で両者の関係は再び冷え込んだ。この氷を溶かすには何年もかかるだろう。
ベネディクト16世は、これまでもユダヤ教徒やイスラム教徒の神経をさかなでする発言を何度も繰り返してきた。カトリック教会の最高権力者は象牙の塔に閉じこもるだけでなく、人々の感情や国際情勢に対する配慮が必要なのではないだろうか。
13 Februar 2009 Nr. 752