「連邦政府、州政府、自治体は、2013年までに、託児施設を大幅に増設することで合意しました。これで、3歳未満の幼児の3人に1人は、託児所に入れるようになります」。自分自身も母親である、フォン・デア・ライエン家庭相は、今月2日、ほっとした表情で発表した。社会保障サービスが削除されるというニュースの多かったドイツでは久々の朗報である。
連邦政府や州政府は、総額37億ユーロの資金を投じて、55万カ所の託児所を新しく建設する。現在、託児所に入ることができる子どもの比率は、旧西ドイツ地域が7.8%、旧東ドイツ地域が39%となっており、特に西側で託児所が大幅に不足している。政府は2009年には3歳未満の幼児の内、5人に1人が託児所に入れるようにする予定だ。
これまでドイツでは、フランスや英国に比べて託児所が少なく、料金が高かったので母親が仕事を続けにくかった。出生率も欧州で最も低い水準に達していた。託児所が少ないために出産後は仕事を続けられなくなるので、子どもを作るのをやめようと考えるカップルもいたに違いない。
私の回りにも出産後も仕事を続けたいが、託児所が見つからず困っているドイツ人が何人もいる。ミュンヘンでは、託児所に空きができるのを、何カ月も待っていたり、昼間に会社で働いている間は、両親に子どもを預かってもらったりしている母親は少なくない。だが託児所の数が今の約3倍に増えれば、女性が仕事と家庭の両立を実現しやすくなる。
その意味で、フォン・デア・ライエン家庭相が託児所増設に関する合意をまとめ上げたことを高く評価したい。彼女が属するキリスト教民主同盟(CDU)や、姉妹政党であるバイエルン州のキリスト教社会同盟(CSU)には、「女性は子どもができたら、職場で働かないで子どもの面倒を見るべきだ」と考える頑固な保守主義者たちが少なくない。
そうした党内の抵抗を打破して、同相が託児所合意を達成した背景には、旧東ドイツ出身のメルケル首相が、援護射撃をしたこともあるに違いない。労働力が不足していた社会主義時代の旧東ドイツでは、女性の90%が働いており、国営の託児所が完備されていた。メルケル首相が育った国では、母親が働くことは当たり前だったのだ。
さらに、人口減少が進むドイツでは将来労働力が不足することは確実と見られており、女性の労働力の活用は極めて重要なテーマである。政府がこうした長期的な視点に立って、女性にとって働 きやすい社会環境の整備に着手したことはメルケ ル政権の大きな功績の1つとして記憶されることになるだろう。
これまでメルケル首相は外交面では華々しい活躍をしてきたが、内政面ではヒットが少なかった。だが今回の託児所合意は市民や経済界からも高く評価されるに違いない。
13 April 2007 Nr. 658