メルケル首相の率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)とヴェスターヴェレ党首が率いる自由民主党(FDP)は総選挙での勝利後、ただちに連立政権の今後の政策を決めるための交渉に入った。
この交渉過程から、2つの党がドイツをどのように変えようとしているのか、さらに新政権の前にどのような難題が横たわっているのかが、浮かび上がってくる。
両党にとって最大の課題は、選挙前に公約として掲げてきた減税をどのように実現するかである。この公約を実行すると、税収は少なくとも150億ユーロ(1兆9500億円)減ると推定されている。
だが昨年秋からの金融危機の影響で、財政状態は火の車。今年6月の財務省の見積もりによると、今年度と来年度の財政赤字を合わせると、1337億ユーロ(17兆3810億円)という天文学的な数字になることがわかっている。
ユーロ圏に属する国は、財政赤字が国内総生産(GDP)に占める比率を3%未満に抑えなければならない。ドイツの今年の財政赤字比率は3.7%で、すでにこの基準に違反しており、来年はさらに6%まで悪化するものと予想されている。
こう考えると、「150億ユーロもの減税が本当に可能なのか?」という疑問が浮かび上がってくる。有権者に希望を持たせるだけの、口約束にすぎなかったのだろうか。
CDU・CSUとFDPの間で大きく意見が食い違っているのが、公的健康保険制度の改革である。FDPは、今年1月にメルケル政権が導入した健康基金(Gesundheitsfonds)を廃止し、基本的なカバー以外は民間の健康保険を活用するように求めている。
これに対し、メルケル首相は健康基金の維持を主張している。だが10月6日には、公的健康保険の赤字が75億ユーロ(9750億円)に膨らむ見通しが明らかになった。医療費の高騰、そして不況のために失業者が徐々に増えていることが原因である。
また、メルケル氏とヴェスターヴェレ氏の意見は、労働者を解雇から守る法律、つまり“Kündigungsschutzgesetz”についても対立している。FDPは企業経営者と財界寄りの党として知られている。つまり本音としては、社会保障をなるべく減らして企業の国際競争力を高めたいと思っているのだ。
現在「労働者を解雇から守る法律」は、従業員数が10人を超える企業で、半年以上働いている社員に適用されている。ヴェスターヴェレ氏は、この法律の適用を従業員数が20を超える企業で、2年以上働いている社員に限るべきだと主張している。小規模企業の経営者がリストラをしやすくするためである。だがメルケル首相は、選挙前に「この法律は変更しない」と確約している。不況の影響が続く今日、この法律の緩和は国民の間に強い不満を生むだろう。
一方、両党の間で意見が一致しているのは、脱原子力政策の見直し。新政権は電力会社や経済界の要望を受け入れて、現在運転中の原子炉については稼動年数の延長を認める公算が強い。シュレーダー氏の赤緑政権が導入した、原子力廃止政策が大きく変更されることになる。
多くの市民は不況からの脱出と雇用の安定を望んでいる。新政権は、この願いを叶えることができるだろうか。
16 Oktober 2009 Nr. 787