Hanacell

銀行危機は終わっていない

ドイツの町は美しいイルミネーションで飾られ、すっかりクリスマスの雰囲気に包まれているが、バイエルン州政府と納税者にとっては、お祝い気分を壊すような凶報が飛び込んできた。

バイエルン州立銀行は、2年前にオーストリアのヒポ・グループ・アルプ・アドリア銀行(HGAA)の株式の約67%を取得し、最大の株主となっていた。だがHGAAが深刻な経営危機に陥ったため、バイエルン州立銀行はHGAAをオーストリア政府に譲渡することになった。

国有化という異例の措置の理由は、オーストリアの銀行の中で6番目に大きいHGAAが倒産した場合、同国内だけでなく欧州のほかの金融機関にも甚大な悪影響が及ぶと判断されたからだ。バイエルン州立銀行はHGAAを買収した時、17億ユーロ(約2210億円)を投じたが、同行をオーストリア政府に対して売る時の価格はわずか1ユーロ。17億ユーロもの金をどぶに捨てたようなものだ。

HGAAの救済のためにバイエルンの納税者には、合わせて37億ユーロ(約4810億円)もの負担が生じることになった。この金を銀行の救済でなく託児所や学校、病院などの建設に回していたら、市民にとっての恩恵ははるかに大きかっただろう。その意味でバイエルン州立銀行の責任は重い。12月14日に同行の頭取が引責辞任したのは、当然のことである。

HGAAはクロアチアやボスニア・ヘルツェゴヴィナなど東欧諸国に積極的に投資していたが、ずさんな融資も行っていたと伝えられる。たとえばHGAAはアドリア海沿岸諸国で富裕層に対し400隻の豪華ヨットを購入する資金を貸していたとされるが、これらの船の大半は現在行方がわからなくなっている。バイエルン州立銀行がなぜこのような銀行を買収したのか、理解できない。

昨年バイエルン州立銀行は、米国のサブプライム・ローンが混入した金融商品に投資したために、巨額の損失をこうむって経営難に陥った。このためドイツ政府の銀行救済基金から54億ユーロ(7020億円)もの公的資金を注入されて、かろうじて破たんを免れた。州立銀行の本来の任務は、国内の中小企業を融資によって支援することである。公共的な性格が強い銀行がその使命を忘れて、十分な審査もせずに外国の銀行や危険な金融商品に投資していたのだ。

しかも、州立銀行が深刻な経営危機に陥ったのはバイエルンだけではない。バーデン=ヴュルテンベルク州やノルトライン=ヴェストファーレン州でも、同様の事態が起きている。連邦政府は、公的銀行に対する監督を強化するべきではないだろうか。

一部の経済学者や政治家の間では、「銀行危機は峠を越した」という意見が有力だ。だがHGAA問題やドバイ・ショックは、銀行危機がまだ終息していないことを示している。「青天の霹靂(へきれき)」のように屋台骨が傾く銀行は、今後も現れるだろう。その意味で今回の不況はかなり長引くに違いない。

25 Dezember 2009 Nr. 797

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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