師走のドイツは強い寒波に襲われたが、2010 年の政治、経済も試練の多い、冷え冷えとした年になりそうだ。そのことは、先月中旬にショイブレ財務相が発表した2010 年度予算案にはっきり現れている。
史上最悪の財政赤字
ショイブレ氏は苦虫をかみつぶしたような顔で、今年度の財政赤字が1000 億ユーロ(約13兆円)に達することを明らかにした。戦後最悪の水準である。彼が“Bitter aber nötig”(ひどい事だが必要だ)と述べているように、ドイツは巨額の借金以外に道がない。銀行危機と不況で、2009 年度のドイツ経済は5%という前例のないマイナス成長を経験した。世界各国で景気が同時に悪化したために、輸出に大きく依存しているドイツは日本同様に大きな打撃を受けたのだ。
昨年、多くの企業は労働短縮(クルツアルバイト)によって社員の解雇を避けてきた。だがクルツアルバイトは期限が限られているので、今年は社員を解雇する企業が増える。さらにドイツ連邦政府が自動車メーカーを支援するために昨年導入した買い替え奨励金(Abwrackprämie)もすでに終了している。
このため連邦政府の諮問機関・経済賢人会議は、「今年は失業者数が50 万人増えて、400 万人に迫る」と予想している。また、昨年8%だった失業率は、9.4%に達すると見られている。各省庁の中で最も予算が増強されたのが、失業対策や公的年金を担当する連邦労働社会保障省で、前年に比べて14.8%も増える。公的年金の補てんだけでも808 億ユーロ(約10 兆5040 億円)に達する見通しだ。
ユーロ圏に属する国は、財政赤字の国内総生産(GDP)に対する比率を3%未満、公共債務の対GDP 比率を60%未満に抑えなければならない。だが今年度のドイツは財政赤字比率が6%、公共債務比率が73%と、基準を大幅に違反する。ショイブレ氏は、倹約を重視するシュヴァーべン人。その彼が、あえてこれほど多額の借金を背負うということは、不況がまだ長引くことを示唆している。
新年早々重苦しい話題で恐縮だが、明るい材料は少ない。せめてもの救いは、ドイツが苦しい財政状況にもかかわらず、社会保障を大幅にカットせず、弱者や貧困家庭を支援するシステムを維持していることだろうか。
アフガンという難題
今年、ドイツ連邦政府は安全保障、外交の分野でも重い課題を背負う。メルケル政権、特にグッテンベルク国防相はアフガニスタンに連邦軍を増派するかどうかを決めなければならないのだ。現在ドイツは4500 人の将兵を派遣しており、米国、英国に次いで3 番目に多い。オバマ大統領が3 万人の増派を決めたことから、ドイツなど同盟国にも駐留軍の増強を求める圧力が高まっている。
だが昨年9 月のクンドゥズでの空爆をめぐって、議会と国防省の間では緊張関係が高まっている。グッテンベルク氏は就任直後、「空爆は適切だった」と軍をかばう発言を行ったが、多数の民間人が犠牲になったことを示す報告書の存在が明るみに出ると発言を撤回し、連邦軍総監らを解任した。元総監は、「グッテンベルク氏はすべての報告書を受け取っていたはずであり、知らなかったというのは嘘」と反論している。メルケル政権の若きホープは、最大の危機に直面している。議会の調査委員会の真相解明作業も難航するだろう。
8年前にドイツが軍の派遣に踏み切ったのは、現地で活動するNGO を守り、病院や学校の建設などインフラの整備を支援するためだった。だが数年前から抵抗勢力によるテロ攻撃が急激に増えているために、任務の中で戦闘が占める割合が増大しつつある。これは政府が予想していなかった事態である。
西側諸国の空爆によりアフガン市民の間に死傷者数が増え、治安回復の兆しが見えないことでドイツ市民の反戦機運は今年一段と高まるだろう。こうした中でメルケル政権は、オバマ大統領への連帯を示すためにアフガンへの増派を決めるのか。それとも国内世論に配慮して支援を拒否するのか。2010 年は米独の同盟関係にとっても、正念場となるだろう。メルケル氏の舵さばきが大いに注目される。(写真は筆者撮影)
(筆者より読者の皆様へ)新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。読者の皆様のご多幸とご健康を心からお祈りいたします。
8 Januar 2010 Nr. 798