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メルケル氏は大連立政権の頃から、舞台裏での根回しを好み、表面的には沈黙を守る政治家だった。CDUの保守層は、「メルケル氏は、黙って危機が去るのを待つばかり。積極的な発言によって党員を率いていくリーダーシップに欠ける」と指摘しているのだ。
実際、昨年の連邦議会選挙では、CDUとCSU(キリスト教社会同盟)は得票率を前回の選挙に比べて1.4ポイント減らしている。33.8%という得票率は、ドイツのトップ政党としては淋しい数字だ。メルケル氏が首相の座に残れたのは、得票率を4.8ポイント増やしたFDP(自由民主党)と組むことができたからにすぎない。
CDU・CSUの支持者の内、昨年の連邦議会選挙でFDPに票を投じた市民は、110万人に上る。さらに、棄権したCDU・CSU支持者も100万人を超える。
特に中規模企業の経営者や富裕層が多いドイツ南部のバーデン・ヴュルテンベルク州やバイエルン州では、CDU・CSUに背を向けてFDPを選んだ有権者が目立った。
有権者にとってはCDU・CSUの個性が、SPD(社会民主党)との大連立政権の中で見えにくくなったのである。今、ドイツで盛んに議論されているのが「保守党の役割は何か?」という点である。この問題について、メルケル氏は批判の矢面に立たされている。
たとえば昨年、ベルリンに建設予定の「追放問題資料館」の企画委員会の人選をめぐり、「追放被害者同盟」のシュタインバッハ会長がポーランド政府から強く批判されたことがあった。この時にメルケル首相は沈黙し、CDUの党員でもあるシュタインバッハ氏を弁護しなかった。保守派は、メルケル氏がこの時に沈黙したことを批判している。
また、昨年ローマ教皇ベネディクト16世が、カトリック教会から破門されていた4人の保守的な司教たちについて、破門を解除する方針を明らかにした。だがこの内の1人が、アウシュヴィッツ収容所のガス室で多くのユダヤ人が虐殺されたことを疑問視する発言を繰り返していたことがわかった。
この時にメルケル氏は、「カトリック教会はユダヤ人に対する態度をはっきりさせるべきだ」と述べ、破門解除について強い懸念を表明した。ドイツの首相がローマ教皇の決定を公に批判する発言を行ったのは、初めて。メルケル氏がカトリック教会で最も権威がある人物をあからさまに批判したことは、CDU・CSUの党員たちに強いショックを与えた。敬虔なキリスト教徒の中には、メルケル氏の態度を「神をも恐れぬ所業」と感じた者もいたかもしれない。
つまり保守層にとって、メルケル氏は「リベラル」過ぎるのかもしれない。だがCDU・CSUが保守傾向を強めれば、得票率が増えるという保証はない。冷戦が終わって、欧州から社会主義国が消滅してからは、イデオロギーは選挙の争点ではなくなった。むしろ有権者は、「どの政治家が自分の生活を良くしてくれるか」を基準に票を投じる。このため、どの政党にとっても、有権者を長期間にわたりつなぎとめることが難しくなっているのだ。結党以来の危機にあえいでいるのは、SPDだけではない。CDU・CSUにとっても当分困難な時代が続くだろう。
29 Januar 2010 Nr. 801