
クリスチーヌ・ラガルド仏財務大臣(写真左)
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ドイツは世界でもトップクラスの輸出大国だが、フランスがそのことを厳しく批判したのだ。フランス政府のクリスチーヌ・ラガルド財務大臣は、「ドイツの貿易黒字が多いのは、賃金が低く抑えられていることと、税金が高いので国内の消費が少ないためだ。このことは、ヨーロッパのほかの国々にとって負担になっている」と述べた。
さらにギリシャなどの国では、ドイツに比べて輸出競争力が低いので経済成長が進まず、財政赤字が拡大する原因となっていると指摘する。つまりギリシャの債務危機の間接的な原因は、ドイツの国際競争力の強さにあるというのだ。ラガルド氏はドイツに対して、「輸出に依存する体質を変えるべきだ。賃金を引き上げ、減税を実施することによって内需を拡大してほしい」と求めている。
私はこの発言を聞いて、奇異の念にとらわれた。ドイツの製品がヨーロッパのほかの国でよく売れるのは価格が安いからではなく、品質が良いからである。たしかに、ドイツではフランスと違って最低賃金が法律で定められていない。だがドイツの製造業界の1時間当たりの労働コストは、世界でもトップクラスであり、多くの経営者はいかにして製造コストを下げるかについて頭を悩ませている。この国の労働コストが高いのは、年金や健康保険など社会保険料の負担が大きいからである。賃金が安いからドイツ企業の国際競争力が高いという主張は、おかしい。
メルケル首相も「ドイツの製品が他国の製品よりも良く売れるのは、わが国の強さである。ドイツはこの長所を自ら捨てるべきではない」と述べ、ラガルド大臣の批判に反論した。
フランス政府がドイツを批判した理由の1つは、メルケル政権がEUのギリシャ支援に難色を示していることだ。ドイツでは「EUが債務危機に陥ったギリシャを救援することは、欧州通貨同盟のマーストリヒト条約に違反し、ユーロの信用性を傷つける」という意見が強い。ギリシャを救ったら、スペインやポルトガルなどほかの国まで支援しなくてはならなくなるという危惧もある。ラガルド氏は「マーストリヒト条約を守ることだけが、すべてではない。貿易黒字が多い大国は、弱い国のためにもっと手を差し伸べても良いのではないか」と述べて、ドイツを批判している。
さらに、フランスは伝統的に「EU加盟国、とくにユーロ圏に属する国々はもっと経済政策や、財政政策を協調させるべきだ」と考える傾向がある。いわゆる「ヨーロッパ経済政府(Wirtschaftsregierung)」を作るべきだという主張である。フランスではドイツに比べて、中央集権的な考え方が強いのだ。これに対し地方分権が進んでいるドイツでは、あらゆることを中央政府が決定するのではなく、特に地方政府の独自性を重視すべきだという意見が有力だ。このため経済政策の統合については慎重である。
この論争は、ギリシャの債務危機がきっかけとなって、EU加盟国間の協調に悪い影響が現われていることをはっきり示している。ユーロ圏にとって、正に試練の年である。
2 April 2010 Nr. 810