ドイツにとって、フランスは最も重要な友好国だ。独仏政府は戦後、国際政治の多くの局面で共同歩調を取り、欧州統合(EU)の牽引車の役割を果たしてきた。また、フランスは輸出入ともにドイツの最も重要な貿易相手国でもある。その重要な国で親独派として知られたシラク大統領が引退し、サルコジ氏が後継者となることは、ドイツにどのような影響を与えるのだろうか。
まずサルコジ氏はEUの力が増大することについてはシラク大統領よりも慎重な姿勢を取るだろう。彼は選挙戦の中で、EUの影響力の大きさが各国政府の権限を弱めることについて、批判的な発言を行っていた。特にフランスではドイツと違って、「我々は欧州全体に影響を与える偉大な国家であるべきだ」と考える人が多い。彼らはブリュッセルの欧州委員会が、フランスの重要な国内法を左右している現状を不満に思っているのだ。このためサルコジ氏は、「フランスの国益」をこれまで以上に前面に押し出して、外交政策を押し進めるに違いない。欧州の政治統合を重視するドイツの路線とは、ニュアンスが異なる。
特に両国にとって最初の試金石となるのが、欧州憲法だろう。現在EU議長国を務めているドイツのメルケル首相は、フランスとオランダでの国民投票のために暗礁に乗り上げた欧州憲法条約を復活させようと努力している。
だが多くのフランス人は、この憲法草案について、「グローバル化の象徴」という偏見と反感を持っている。新大統領がこの憲法を後押ししたら、国民の強い批判を浴びることは確実だ。このためサルコジ氏は憲法という言葉を使わずに、加盟国数が増えたEUで意思決定がスムーズに行われることなど、実務的な側面だけに焦点を絞った「ミニ条約」の締結を求めるに違いない。これは、「欧州人としての理念」を憲法条約によって確定しようとしているメルケル首相の考え方とは大きく異なる。つまり、欧州憲法をめぐり独仏間で対立が起こる可能性もあるのだ。サルコジ氏は大統領としての最初の訪問国にドイツとベルギーを選んだが、欧州憲法は重要な議題となるだろう。
一方、サルコジ氏がメルケル首相と似た考えを持っている分野もある。例えばトルコのEU加盟について、サルコジ氏は全面的に反対している。これは、メルケル首相やキリスト教民主同盟(CDU)の路線と合致するものである。ただし、トルコの加盟に前向きな社会民主党(SPD)は、サルコジ氏の方針に反発するだろう。さらに米国に対する姿勢は、シラク氏に比べると穏和である。イラク戦争をめぐって、米仏関係は極端に悪化したが、サルコジ氏はブッシュ政権との関係改善に努めるだろう。この点でも、メルケル首相はフランスと 共同歩調を取りやすくなる。
フランスの大統領選挙では社会保障など国内問題が主な争点となり、外交はあまり重視されなかった。その意味で、サルコジ氏が対独関係やEU政策をめぐって本音を語り始めるのは正にこれからと言えるだろう。
18 Mai 2007 Nr. 663