ドイツにお住まいの皆さんならご存知のように、この国の人々は自転車に乗るのが大好きである。自転車道や標識が整備されたドイツでは、サイクリングは誰もが手軽に楽しめる、素晴らしいスポーツである。春や夏には、大都市郊外のサイクリングコースは家族連れでにぎわう。テレビで中継される自転車競技に対する市民の関心も高い。
それだけに、ドイチェ・テレコム・チームの選手6人が禁止された薬物の使用を告白したのは、多くの国民に衝撃を与えた。ある選手は記者会見で涙を流しながら世間を欺いていたことについて謝ったが、もう遅い。歯を食いしばって坂道を自転車で走るヒーローたちは、実は化学物質の助けを借りて、超人的なパワーを出していたのだ。彼らに対して憧れの眼差しを向けていた青少年たちの失望感は、どれほど深いことだろうか。同競技のヒーローの一人だったヤン・ウルリヒが昨年、トゥール・ド・フランス直前に、ドーピング疑惑のために出場資格を剥奪されたこともまだ記憶に新しい。ウルリヒは、今も薬物使用の疑惑を否定している。
特に驚かされたのは、フライブルク大学病院の高名なスポーツ医学者自らが、選手たちに禁止された薬物を与えていたことである。中でもゲオルグ・フーバー医師は、ドーピングを排除する委員会のメンバーでありながら、1980年から90年まで自ら薬物汚染に手を貸していた。言語道断というしかない。
スポンサーの責任も重い。長時間にわたって企業名を印刷したユニフォームを着た選手がテレビの画面いっぱいに映し出されるのだから、自転車競技の宣伝効果は抜群である。ドイチェ・テレコムは、今回ドーピングの事実が明るみに出たにもかかわらず、2010年までこのチームとのスポンサー契約を続けることを明らかにした。絶好の宣伝媒体に執着するスポンサーの態度には、世間から批判の目が向けられている。
医師まで巻き込んだ今回の薬物汚染問題の背景には、目に見えない金の流れがあるに違いない。万一発覚したら、医師やプロ選手として働けなくなるのだから、それだけのリスクを負っても余りある金が、彼らには約束されているのだろう。政府はそうした背後関係を徹底的に究明するとともに、ドーピングを行った選手の記録取り消しやスポンサーへの自粛の義務付けなど、より痛みを伴う制裁を加えるべきではないだろうか。さもなければ、ドーピング疑惑は再び持ち上がるに違いない。
社会主義時代の旧東ドイツは、スポーツ選手への薬物投与によってオリンピックなどでめざましい記録を残した。社会主義国の優秀性を世界に示すためである。だが薬を飲んだ選手たちの中には、後遺症に苦しむ人々もいる。商業主義に染まった西側スポーツ界は、旧東ドイツの国策ドーピングを笑うことはできない。
8 Juni 2007 Nr. 666