マグニチュード9という観測史上最も強い巨大地震と津波に襲われた日本。この原稿を書いている3月23日の時点で、死者・行方不明者の数は2万3000人を超え、厳しい寒さの中、何十万人もの被災者が避難所で不自由な生活を強いられている。亡くなられた方々に心からご冥福をお祈りする。被災された方々にお見舞いを申し上げるとともに、一刻も早くライフラインが復旧することを切望する。
さてドイツにお住まいの読者の中には、東北地方太平洋沖地震が起きた直後のドイツのテレビ、新聞、雑誌の報道内容にショックを受けた方がおられるのではないだろうか。大衆紙の1面には「アルマゲドン(世界の終わり)」とか「ホラー(恐怖)」という大見出しが乱舞した。ある週刊誌は、犠牲者の遺体の写真を掲載。衝撃的な映像が、これでもかこれでもかと視聴者や読者に突き付けられた。原子力に関する知識が少ないドイツ人による日本滞在報告の中には、「原子炉が爆発した」という誤った記述もあった(原子炉が設置されている建屋が爆発したのは事実だが、原子炉そのものは爆発していない)。これらの報道は、あたかも日本全体が壊滅したり、放射能汚染にさらされたりしているかのような印象を市民に与えた。
このためドイツ市民の中には、日本から約1万キロ離れたドイツにまで放射性物質が流れてくると不安に思い、放射線測定器やヨード剤を購入する市民が増えた。私はインターネットの動画サイト「ニコニコ生放送」で見られる日本のニュースと、ドイツのニュースを比べて見ていた。NHKが市民に不安感を与えないように極力客観的な報道に努め、「安心情報」も流していたのに対し、ドイツのテレビの報道内容には、悲観的でセンセーショナルなものが多かった。私自身、ニュース番組を見るたびに心が暗くなった。多くのドイツ人が不安を抱いた原因の1つは、この報道姿勢にある。
しかし中には、心ある言論人もいる。経済誌「Wirtschaftswoche」のRoland Tichy編集長は3月下旬に、日本人に対して連帯の意を表わす声明を同誌のウェブサイトに発表したが、その中でドイツの震災報道を厳しく批判している。彼は大災害に遭っても冷静さを失わない日本人に感嘆する一方、「ドイツの公共放送は黙示録のような恐怖感を煽っている。多くのジャーナリストが事実と憶測を区別せずに報道しており、(原発事故が)最悪の事態になると最初から決めつけている。私は同業者として恥ずかしい」と告白する。そして、「ドイツ人はパニックに陥り大騒ぎする一方で、犠牲者のことを忘れている」と厳しく指摘。震災を原発反対運動に利用する緑の党の政治家や、「日本に援助に行ったのに、空港に誰も迎えに来てくれなかったので回れ右をしてドイツに帰ってしまった救助隊」を痛烈に批判している。
ドイツに住む多くの日本人が、この文章を読んで元気付けられている。ドイツ人の中にも「彼が言う通りだ」と同意する市民は少なくない。最近になって、ドイツ人とマスコミの過剰反応を指摘する記事が少しずつ現われ始めた。
ドイツ人は1986年のチェルノブイリ原発事故で、国土や農作物が汚染された経験を持つ。さらに欧州で最も環境保護を重視し、原子力に対する不信感が強い国民である。このために今回の原発事故に激しく反応したのだろうが、市民の不安をいたずらに煽るような報道は控えていただきたい。困難な事態であればあるほど、冷静さを保つことが必要である。そして事態が一刻も早く安定化することを、心から祈りたい。
Roland Tichy 編集長のコメント
http://www.wiwo.de/politik-weltwirtschaft/
tabellen-1/japan-trauer-um-die-opfer.html
1 April 2011 Nr. 861