8月30日、菅直人氏の率いていた内閣が総辞職し、民主党の野田佳彦・新代表が95代総理大臣に選出された。菅政権への支持率は、東日本大震災や福島事故への対応の悪さのため、一時16%前後に下がっていた。菅氏が首相に就任した時には、「日本で初めて市民運動から生まれた総理大臣」として内外から注目されたが、3.11以降は保守派だけでなく多くの市民から批判の的とされていた。
多くのドイツ人は、日本でほぼ1年ごとに首相が交代していることを不思議に感じているようだ。確かに、1991年からの20年間で首相になった人の数は14人。特に2006年からの5年間は、野田首相で6人目だ。安倍晋三氏、福田康夫氏、麻生太郎氏、鳩山由紀夫氏は、いずれもほぼ1年前後で首相の座を投げ出した。菅政権も15カ月間しか続かなかったが、これでも比較的長い方である。鳩山政権などは、わずか266日で崩壊した。これで国民の納得の行く政治ができるのだろうか。あるドイツ人の知り合いから「日本の首相というのは、あまり重要なポストではないのですね」と言われた。
野田新首相には、震災と原発事故からの復興、被災者の生活状態の改善を最優先の課題として頂きたい。さらに、東日本大震災によって切迫度を増したと言われる首都圏直下型地震、東海、東南海、南海地震に対する備えに全力を注いでほしい。多くの地震学者が、「戦後続いていた地殻活動の平穏期は終わり、1995年の阪神・淡路大震災から日本は活動期に入った」と主張している。東日本大震災は、1000年に1度の周期で起こる巨大地震が単なる仮定ではなく、現実に起こることを示した。今すぐ対策を取らなければ、1万5000人を超える犠牲者たちがうかばれない。
ここドイツでも、政治の混迷が深刻だ。特に外務相を務める自由民主党(FDP)のギド・ヴェスターヴェレ氏の迷走ぶりは激しい。彼はリビアでカダフィ大佐が失脚した時、当初「ドイツ政府の経済制裁と、リビアの民衆のパワーが原因だ」と語った。しかし、北大西洋条約機構(NATO)が政府軍に空爆を加え、反政府勢力を支援したことがカダフィ政権の崩壊につながったことには言及しなかった。この点については、マスコミだけでなくFDPのレスラー党首も厳しく批判。このためヴェスターヴェレ氏は、しぶしぶNATOの軍事支援を評価する声明を出した。歴代の外務相の中で、彼ほど失言が目立つ人物も珍しい。米英仏などの友好国からの、ドイツの外交政策に対する評価もがた落ちである。
2009年の連邦議会選挙では、FDPの得票率は14.6%だったが、今では半分以下に減って5%前後。ヴェスターヴェレ氏の後任のレスラー党首に対する評価も、かんばしくない。2013年の連邦議会選挙でFDPが政権から弾き出されることは、ほぼ確実であろう。
メルケル首相に対しても、ユーロ危機への対応をめぐって批判が高まっている。ドイツ市民の間では、「我々はいつまで過重債務国を支援し続けなくてはならないのか」という不満が強まっているのだ。この国ではユーロ圏が現在のまま存続すると確信を持って言える市民は、減りつつある。ギリシャへの緊急支援策について、連邦議会の承認を得るのは今後ますます難しくなっていくだろう。
日独共に、政府の鼎(かなえ)の軽重が問われる秋になりそうだ。
9 September 2011 Nr. 884