最近ドイツで地下鉄やバスに乗ると、普段よりも空いているのに気がつきませんか。学校が夏休みに入っている州がまだあり、多くの市民が長いバカンスを取っているのです。
ドイツは、世界最大の休暇先進国です。この国のサラリーマンや労働者は、法律によって年間30日の有給休暇を、完全に消化することが許されています。いや、上司はむしろ部下が30日の休みを全て取るように、積極的に奨励しなくてはならないのです。30日と言えば6週間にあたりますが、この期間は普通に給料が支払われます。全員がたっぷり休みを取るので、休暇を消化しないと損をしたような気になるのでしょう。いっぺんに30日間休んで、世界一周旅行をしたサラリーマンもいます。
私が日本のNHKで働いていた時、1週間の休みを取る時にも、「誠に申し訳ありません」と頭を下げたものです。しかし、ドイツでは30日間の休暇は当然の権利と思われているので、堂々と取るのが当たり前です。夏に限らず、上司が許可すれば、いつでも休みを取ることができます。残業時間がたまった場合には、代休を取ることを認めている企業が多いので、有給休暇と合わせると、40日間も休みがある人も珍しくありません。
ドイツ経営者連合会の調べによると、2004年の旧西ドイツの1年間の労働時間は平均1601時間で、先進工業国の中で最も短くなっています。ドイツ人が働く時間は、日本より20%も短いのです。ときどき「ドイツは、こんなに短い労働時間で、よく世界第3位の経済大国でいられるものだな」と思うことがあります。
各国の経済水準を比べる時には、国民1人あたりの国内総生産(GDP)を比べることが重要です。興味深いことに、OECD(経済協力開発機構)の統計によると、2004年には日本の国民1人あたりのGDPは2万9600ドル、ドイツは2万8800ドルでした。つまりドイツ人は、日本人よりもはるかに長く休暇を取り、20%も労働時間が短いのに、1人あたりのGDPは、日本より2.7%少ないだけなのです。ドイツ人は効率よく働いているということになるかもしれません。
もちろんこの背景には、ドルに対する円の交換レートが低いということもあります。ただし、ドイツに住んでみると、人口が全国に分散しているので、過密や不動産の高騰が起きていないこと、住宅も比較的広いこと、都会の中にも緑地が多いなど、生活の質の高さも感じます。また生活の質を高める上で、長い休暇や短い労働時間は大きな意味を持っています。不況が深刻だった2000年代の初めにも、30日の有給休暇は減らされませんでした。
東ヨーロッパの国々によって追い上げられる中、ドイツ経済に改革が必要なことは確かですが、ドイツ人たちはこの長い休暇を最後まで守ろうとするに違いありません。
17 August 2007 Nr. 676