旧東独で、またもや呆れるような事件が起きました。8月20日、ザクセン州のミューゲルンという小さな町で、ドイツ人の若者50人が、8人のインド人を追いかけ、けがを負わせたのです。
私に特にショックを与えたのは、ゴットハルト・ドイゼ・ミューゲルン市長の言葉です。「この町には、極右勢力のグループはいません。もしも犯人たちが、外国人排斥の思想を持っているとしたら、彼らは他の町から来たのでしょう」。被害者に対する謝罪や同情ではなく、まず自分の町に責任はないとする、自己中心的な主張です。
統一から17年近く経った今も、旧東独では外国人が襲われる事件が後を絶ちません。憲法擁護庁の調べによりますと、住民10万人あたりの極右による暴力事件の数は、旧西独よりも旧東独が圧倒的に多くなっています。
その理由の1つは、旧東独で多くの若者が失業しており、自分たちを「統一による負け組」と感じていることです。今年6月の旧東独の失業率は14.7%で、西側の2倍に達しています。
政府が毎年、国内総生産(GDP)の5%にあたるお金を旧東独支援のためにつぎ込んでいるのに、この地域の経済が自立する兆候は見られません。旧東独では、賃金は急速に引き上げられたのに、生産性は西側に比べて低いのです。このため、多くの西側企業は旧東独を素通りして、労働コストが安い東欧に工場を建ててしまうのです。西側市民の間では、「いつまで連帯税を旧東独のために払わなくてはならないのか」という 不満の声が出ており、東西間の心の壁は、高くなる一方です。
実は政府も、旧東独の状況については匙を投げているようです。経済専門家たちの間では、「旧東独は底のないバケツのようなものなので、資金援助はほどほどにしたほうが良い」という意見が強まっています。ケーラー大統領は、「東西間の経済格差は、当分縮まらない。自分の生活を変えたいと思う人は、西側に移住するべきだ」と言ったことがあります。
実際、やる気のある若者たちの間には、旧東独を捨てて西側へ移り住む人が増えています。東の州の人口は、今も減り続けており、市民の平均年齢は上昇する一方です。特に若い女性の間で移住者が目立っており、旧東独の若い男性たちにとっては、仕事もガールフレンドもなかなか見つからず、欲求不満がたまりつつあるのです。
旧東独の人口の中に外国人が占める比率は、2%前後にすぎません。それなのに、一部の若者は「外国人が我々の仕事を奪っている」という先入観を持っています。それが、アルコールに増幅されて、外国人に対する襲撃という形で暴発するのでしょう。つまり外国人差別の背景は、極右組織が町にあるかどうかではなく、人々の心の問題なのです。
政府は、優秀なコンピューター技術者が不足しているためにインドからの移民を奨励したいとしています。しかし、旧東独人たちの心の問題を放置し、インド人がドイツ人に襲撃されるのを防ぐことができないようでは、優秀なIT技術者はドイツを避けて米国に行くのではないでしょうか。
31 August 2007 Nr. 678