ジャパンダイジェスト

オンライン捜索は許されるか

オンライン捜索は許されるかあなたの知らないうちに、ドイツの警察が通信回線を通じてあなたのコンピューターに入り込み、ハードディスクに保存されている文書やメールを勝手にコピーして調べていたとしたら、どう感じるだろうか。

ショイブレ内務相は、このようなオンライン捜索(Online Durchsuchung)を行う権利を、捜査機関に認めるよう要求している。その理由は、アルカイダの影響を受けたイスラム過激派のテロリストたちが、ウェブサイトやメールを使って互いに連絡を取り合っていることだ。大臣の発言は、ドイツ社会で大きな議論を巻き起こした。

多数のメンバーと同時に交信することを可能にするインターネットは、多くの国に分散して活動しているテロリストにとって、重要な道具である。過激な聖戦(ジハード)思想を広めるという目的にも、悪用されやすい。過激勢力の中には、「ドイツがアフガニスタンから撤退しない場合には、無差別テロを起こす」というドイツ語の警告文を、ホームページに掲載した者もいる。このためショイブレ大臣は、「アルカイダなどによる無差別テロを未然に防ぐためには、容疑者のコンピューターに入り込んで文書やメールを押収し、分析することが不可欠だ」と主張しているのだ。

対外諜報活動を行う連邦情報局(BND)は、すでにオンライン諜報活動を行っていると言われる。例えば、フランクフルター・アルゲマイネ紙で働いていたウド・ウルフコッテ記者は、BNDに関する本を出版しようとしていた。彼はそのために、BNDにインタビューを申し込んだが、BNDの担当者がすでに自分の原稿の草案を持っていることに気づいた。このため同氏は、BNDが通信回線を通じて自分のコンピューターに入り込み、草稿を盗み出したという疑いを強めている。

市民団体や左派政党からは、「ショイブレ大臣の提案は、東ドイツ時代の秘密警察シュタージを思い起こさせる」として、強い批判の声が上がっている。確かに、警察がオンライン捜索の権利を乱用した場合、多くの市民のプライバシーが侵害される恐れもある。しかし、イラクやアフガニスタンでの欧米の軍事作戦が長引くなか、イスラム過激派がロンドンやマドリッドで起こしたような無差別テロを、他の都市でも実行に移す危険は、刻々と強まっている。捜査当局にとって、潜伏しているテロリストを摘発するための対抗手段が必要なことも事実だ。

警察の捜査を可能にするために、プライバシーの侵害はどの程度許されるべきか。この議論には、なかなか決着がつきそうにない。

2 November 2007 Nr. 687

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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