ジャパンダイジェスト

古典から若手作家の作品まで勢ぞろい! ドイツ生まれの絵本を読もう

読書の秋、今年はドイツ語の本も読んでみたい。でも長編はちょっと難しいかもという人や、子どもと一緒にドイツ作品を楽しんでみたいという人は、ドイツ語の絵本を読んでみるのはいかがだろうか。古典から現在活躍している作家の作品まで、思わず飾っておきたくなるようなデザインが美しい本も含め、ドイツ生まれの絵本を一挙にご紹介! 書店や図書館でお気に入りの一冊を見つけてみて。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

100年以上読み継がれる古典絵本

ちょっと怖いのがクセになる!? Der Struwwelpeter
『もじゃもじゃペーター』 (ほるぷ出版)

もじゃもじゃペーター

著者:ハインリヒ・ホフマン
出版社:Thienemann-Esslinger Verlag
初版出版年:1845年
対象年齢:5歳以上

1年以上爪を切らず、髪の毛は伸び放題……ぎょっとする見た目の男の子が表紙にどーんと描かれている『Der Struwwelpeter』(もじゃもじゃペーター)は、なんと180年前に出版された絵本。開業医だったハインリヒ・ホフマン(1809-1894)は、クリスマス前に3歳の息子に絵本をプレゼントしたいと思っていたが、書店でなかなかいいものが見つからない。そこで絵本を手作りすることに。息子が夢中になったことをきっかけに、翌年に出版が決まり、現在も元祖ドイツ絵本として世界中で読み継がれている。不潔なペーターをはじめ、イヌをいじめる男の子、マッチで遊ぶ少女など、悪いことをする子がどんな仕打ちを受けるのか、ちょっと怖い展開は大人になっても忘れられないかも?

いたずら二人組の元祖コミック Max und Moritz
未邦訳:マックスとモーリッツ

Max und Moritz

著者:ヴィルヘルム・ブッシュ
出版社:Schwager & Steinlein Verlag
初版出版年:1865年
対象年齢:3~10歳

詩人でイラストレーターのヴィルヘルム・ブッシュ(1832-1908)は、「現代コミックの元祖」といわれている。1865年に出版された『Max und Moritz』(未邦訳:マックスとモーリッツ)は、そんなブッシュの作風が表れている作品の一つで、ドイツ児童文学の古典として広く知られる。人をからかったり何かを盗んだりするのが大好きなマックスとモーリッツは、未亡人のボルテさんのニワトリにいたずらを仕掛けることに。二人のいたずら模様が四コマ漫画のように描かれている。しかしそんな悪さばかりをしていたら、ハッピーエンドとはいかないのがお決まり。七つ目のいたずらで二人の身に起こることとは……。ドイツ的なブラックユーモアに笑えるか笑えないか、最後まで読んでみてのお楽しみ。

季節の移り変わりを美しく描く Mit den Wurzelkindern durchs Jahr
『ねっこぼっこ』 (平凡社)

ねっこぼっこ

著者:ジビュレ・フォン・オルファース
出版社:Thienemann-Esslinger Verlag
初版出版年:1906年
対象年齢:3歳以上

幼いころから絵を習っていたジビュレ・フォン・オルファース(1881-1916)は、24歳で修道女となり、リューベックの芸術アカデミーで学んだという経歴の持ち主。代表作『Mit den Wurzelkindern durchs Jahr』(ねっこぼっこ)は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのアール・ヌーヴォーの美しさが詰まった絵本だ。子どもの姿をしたねっこぼっこ(Wurzelkinder)たちが目を覚ますと、色とりどりのドレスを縫ったり、虫の手伝いをしたりと、春の支度を始める。六つのお話を通じて四季の移り変わりが語られ、温かみあるタッチの挿絵と共に自然のサイクルを知ることができる。心が洗われるようなフォン・オルファースの優しい世界に浸ろう。

ウサギの子どもたちの一日 Die Häschenschule
『うさぎ小学校』 (徳間書店)

うさぎ小学校

著者:アルベルト・ジクストゥス 文、フリッツ・コッホ=ゴータ 絵
出版社:Thienemann-Esslinger Verlag
初版出版年:1924年
対象年齢:4歳以上

2024年で初版出版から100周年を迎えた『Die Häschenschule』(うさぎ小学校)は、何世代にもわたって愛されてきたドイツの定番絵本で、2017年には映画化もされている。学校へ行く日の朝、「キャベツのハンカチで鼻をかんでね!」とウサギのお母さんが子どもたちにてきぱきと身支度をさせるシーンから始まる本作。空想の世界の楽しさとどこか見覚えのあるようなリアルな光景が生き生きと描かれている。アルベルト・ジクストゥス(1892-1960)は、およそ70作品を残した20世紀の児童文学作家。一方、挿絵を担当したフリッツ・コッホ=ゴータ(1877-1956)はベルリンで人気を博したイラストレーターで、本作のウサギたちは当時の市民生活を反映している。

ドイツを代表するベストセラー絵本

小さなクマとトラのちょっとおかしな旅 Oh, wie schön ist Panama
『パナマってすてきだな』 (あかね書房、絶版)

パナマってすてきだな

著者:ヤーノシュ
出版社:BELTZ
初版出版年:1978年
対象年齢:5歳以上

ドイツの国民的作家といっても過言ではないヤーノシュ(1931-)は、柔らかい水彩画のタッチとユーモアのある言葉で子どもから大人まで夢中にさせてきた。そんな彼の作品を代表するキャラクターが、小さなクマとトラのコンビ。この『Oh, wie schön ist Panama』(パナマってすてきだな)にも彼らが登場する。ある日小さなクマが見つけたバナナの香りのする箱に「パナマ」と書いてあったことから、二人は夢の国パナマを目指して旅に出る。珍道中の末、生きる上で大切な何かを教えてくれる作品で、1979年にはドイツ青少年文学賞を受賞した。公式ホームページ(www.janosch.de)では動画版も公開されているので、併せて見てみよう。

いろいろな形のうんちが登場!? Vom kleinen Maulwurf, der wissen wollte, wer ihm auf den Kopf gemacht hat
『うんちしたのはだれよ!』 (偕成社)

うんちしたのはだれよ!

著者:ヴェルナー・ホルツヴァルト 文、ヴォルフ・エールブルッフ 絵
出版社:Peter Hammer Verlag
出版年:1989年
対象年齢:2歳以上

ある日、モグラが地面から顔を出すと、頭にソーセージのような細長いものが落ちてきた。「うんちしたのは誰なの?」と怒るモグラに、ハトは自分ではないと白いフンをして見せる。そうやって犯人捜しをするモグラが次に出会ったのは? 同作は日本語を含む40カ国語以上に翻訳されたベストセラー。今年は、ザールラント州立劇場で子ども向けオペラが上演された。ヴェルナー・ホルツヴァルト(1947-)は、広告代理業界で活躍後、バウハウス大学で教べんを取っていた人物。ヴォルフ・エールブルッフ(1948-2022)は、息子の誕生をきっかけに児童書の執筆と挿絵を描き始め、2006年には国際アンデルセン賞の画家賞を受賞している。

昼の世界に憧れたおばけの物語 Das kleine Gespenst
『小さいおばけ』 (徳間書店)

小さいおばけ

著者:オトフリート・プロイスラー 文、フランツ・ヨーゼフ・トリップ 絵
出版社:Thienemann-Esslinger Verlag
出版年:1966年
対象年齢:6歳以上

『大どろぼうホッツェンプロッツ』や『クラバート』(いずれも偕成社)など、ドイツ児童文学を代表する作品の数々を世に送り出してきたオトフリート・プロイスラー(1923-2013)。出版された35冊以上の本は50カ国語以上に翻訳され、国内外の文学賞を受賞している。そんなプロイスラーの『Das kleine Gespenst』(小さいおばけ)は、昼の世界を見たいと願う小さなおばけが主人公。オイレンシュタイン城に住むおばけは、昼を見るために朝も目を覚ましていようとするが、何度も失敗してしまう。ところが、突然その願いが叶って……。フランツ・ヨーゼフ・トリップ(1915-1978)の素朴かつユニークなモノクロの挿絵が、さらに想像をかき立ててくれる。

小さいおばけ

何度読んでも新たな発見が! Herbst-Wimmelbuch
未邦訳:秋の探し絵本

秋の探し絵本

著者:ロートラウト・ズザンネ・ベルナー
出版社:Gerstenberg Verlag
出版年:2024年
対象年齢:2~6歳

イラストレーターとして活躍するロートラウト・ズザンネ・ベルナー(1948-)は、これまで何度もアストリッド・リンドグレーン記念文学賞や国際アンデルセン賞にノミネートされ、2016年に後者を受賞している。ベルナーの作品といえば、人や動物、建物、乗り物など、ありとあらゆるものが細かく描かれた文字のない絵本「Wimmelbuch」(探し絵本)。眺めながらお話をするのもよし、人やものを探して遊ぶのもよし、いろいろな読み方ができるのがうれしい。最新作『Herbst-Wimmelbuch』(未邦訳:秋の探し絵本)は、秋の季節をテーマに紅葉の風景、かぼちゃ祭り、ランタン行列など、ドイツの風物詩も登場。パズルやカレンダーもあるので、気になる人はチェックしてみて。

秋の探し絵本

今注目の若手作家たちの絵本

大学の卒業制作から生まれた絵本 Lindbergh
Die abenteuerliche Geschichte einer fliegenden Maus
『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』 (ブロンズ新社)

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険

著者:トーベン・クールマン
出版社:NordSüd Verlag
出版年:2014年
対象年齢:5歳以上

ハンブルクに、人間の本を読むのが大好きな小ネズミが住んでいた。ある日、仲間のネズミたちが安全な場所を求めて海を渡っていることに気付く。そして、小ネズミは空を飛ぶことを決意したのだった。初めて単発機で大西洋横断に成功したチャールズ・リンドバーグにちなんだ作品で、同シリーズのタイトルはそれぞれ『アームストロング』、『エジソン』、『アインシュタイン』と偉人の名が付けられている。作者のトーベン・クールマン(1982-)は、幼いころから何かを発明したり、機械や飛行機の歴史に夢中だったという。本作はハンブルク応用科学大学の卒業制作として構想され、デビュー作にして日本語を含む20カ国語に翻訳された。

リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険

丁寧に描く子ども同士のあるある Morgen bestimme ich!
未邦訳:明日は僕が決める!

Morgen bestimme ich!

著者:イョルク・ミューレ
出版社:Moritz Verlag
出版年:2024年
対象年齢:4歳以上

イョルク・ミューレ(1973-)は、デザイナーとして書籍や雑誌のイラストを手がけてきた。2007年から絵本の挿絵を担当するようになり、2015年、ウサギをお世話したり寝かしつけたりするという新しいコンセプトの「Hasenkind」シリーズで絵本作家としてデビュー。娘のために作った同シリーズは、日本では「バニーといっしょ!」シリーズ(キーステージ21)として人気だ。最新作『Morgen bestimme ich!』(未邦訳:明日は僕が決める!)は、クマとイタチが主人公。誰がアナグマと遊ぶかをめぐってクマとイタチが言い合いを始め、何をするにも「ああ言えばこう言う」状態に。なんでも自分で決めたい年頃の子どもたちの姿がそのまま描かれており、作者の鋭い観察眼が伺える。

Morgen bestimme ich!

森へ探検に出かけよう Waldtage!
未邦訳:森に行く日

Waldtage!

著者:シュテファニー・ヘーフラー 文、クラウディア・ヴァイカート 絵
出版社:BELTZ
出版年:2020年
対象年齢:4歳以上

ある日、幼稚園の掲示板に「来週はWaldwoche(森週間)!」と張り出された。ハリネズミ組は5日間続けて毎日森へ出かけることになり、みんなワクワクドキドキ。先生に連れられて歩く森の中で、何か音が聞こえ、子どもたちは動物たちをおびき寄せようと、いろいろなアイデアを出し合うが……。作者のシュテファニー・ヘーフラー(1978-)はドイツ児童文学界の新鋭で、数多くの賞にノミネートされている。教師として働くへーフラーは、家族と一緒に黒い森の街に住んでおり、森の魅力を分かりやすく伝えてくれる。森を親しみ深く描いたイラストは、ドイツ青少年文学賞にもノミネートされたクラウディア・ヴァイカート(1969-)が担当する。

ドイツで最も美しい哲学絵本 Ludwig und das Nashorn
未邦訳:ルートヴィヒとサイ

Ludwig und das Nashorn

著者:ノエミ・シュナイダー 文、ゴールデン・コスモス 絵
出版社:NordSüd Verlag
出版年:2023年 
対象年齢:4歳以上

『Ludwig und das Nashorn』(未邦訳:ルートヴィヒとサイ)は、2023年に「Die Schönsten Deutschen Bücher」(ドイツの最も美しい本)に選ばれた作品だ。本作は哲学者ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインが唱えた「この部屋にサイがいないことを証明せよ」をテーマにしている。「僕の部屋にサイがいる」と言うルートヴィヒに対し、全く信じないお父さん。たとえ目に見えない物だとしても、そこに存在する可能性を考えさせてくれる。作者のノエミ・シュナイダー(1982-)は、ジャーナリストとして映画やラジオ、印刷物などさまざまなジャンルで活躍する人物。ゴールデン・コスモスはベルリンで活動するアーティストデュオで、本作が初の絵本作品となる。

Ludwig und das Nashorn

誰もが主人公になれる時代へ
絵本における多様性を考える

さまざまな場面で「多様性」が語られるようになった今日、絵本の世界でも多様性は重要なテーマの一つだ。ここドイツの絵本や児童書でも、ジェンダーをはじめ、LGBTQがテーマになっているほか、マイノリティや障がいのある人物が主人公のものが次々と出版されている。

もともと絵本には、冒険の旅に出る男の子、お母さんのお手伝いをする女の子など、固定観念的なジェンダーロールが描かれていることが多い。2019年に南ドイツ新聞が過去70年に出版された5万冊のドイツの絵本や児童書、ヤングアダルト本を調査したところ、男性の主人公は女性の主人公に比べて2倍以上冒険をしていることが分かった。

さらにドイツでは、登場人物の肌や髪の色についてもしばしば指摘される。ドイツの主要都市に住む子どもの約半数が移民的背景を持っているにもかかわらず、児童書の主人公は白人やブロンドヘアが大半だ。2019年時点の児童文学研究において、ドイツの児童文学市場ではBAME(Black, Asian and Minority Ethnic)の登場人物は限られた範囲内でしか登場しないと結論付けられている。有色人種が主人公になるのは移民や人種差別をテーマにした物語であることが多く、おとぎ話に出てくることはほとんどない。

初等教育専門家のラース・ブルクハルト氏によると、児童書は子どものアイデンティティの形成に寄り添ってくれる存在だという。本の登場人物と自分を重ね合わせることは、子どもの成長にとって重要だ。しかし本の中に限られたアイデンティティしか描かれていなければ、自分自身の可能性を広げることも難しくなる。例えば、白人の医師や政治家しか描かれていないとしたら、有色人種の子どもは、自分はその職業に就くことができないと考える傾向にあるとする意見もある。さらに、AfroKids Germanyを主催するジャメ=ジーゲル氏は、作品に白人の登場人物しか出てこない場合、白人の子どもが「外国人」の存在を知ることができず、遠ざけることにつながると、シュピーゲル紙のインタビューに答えている。

そうした背景もあり、近年ドイツ国内では当事者が有色人種の子どもを主人公とした絵本を出版するなどの動きも見られている。さらに多様性を意識した絵本を取り扱う専門書店などが増えているほか、今年の「Deutscher Kinderbuchpreis」(ドイツ児童書賞)にも家族の多様化について取り上げた『Ach, das ist Familie?!』(未邦訳:ああ、これが家族⁉)がノミネートされ、多様性への意識はますます高まっているといえるだろう。ドイツの作品以外にも、さまざまな国で評価された多様性の絵本や児童書がドイツ語に翻訳されているため、書店や図 書館でぜひ手に取ってみよう。

Ach, das ist Familie?!

Ludwig und das Nashorn

著者:ブリタ・キヴィット 文、エミリー・クレア・フェルカー 絵
出版社:Edition Michael Fischer
出版年:2023年
対象年齢:5歳以上

参考:ze.t「t Vielfalt: Warum es nicht egal ist, was wir Kindern vorlesen」、Goethe-Institut「 Diversität in aktuellen deutschen Kinder-Bestsellern」、Deutschlandfunk Kultur「Diversität: Mehr Vielfalt in Kinderbüchern」、Spiegel Familie「Diversität in Kinderbüchern Von Schwarzen Prinzessinnen und männlichen Meerjungfrauen」

 
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