シュヴァーベンの田舎町が生んだ発明一家
グリュービンゲンは、バーデン=ヴュルテンベルク州のシュヴェービッシェ・アルプの麓に位置する人口2200人ほどの小さな街だ。ヒルゼンベック=ラム醸造所は1728年から続く、地元に根付いた家族経営の醸造所。伝統的なビールだけでなく、クラフトビールやウイスキー造り、さらには環境に配慮した発想豊かな取り組みが注目されている。
その一つが消毒用アルコールだ。コロナ禍に消毒用のアルコールが不足したのは記憶に新しい。ドイツの複数のビール醸造所では、既存の設備を使用して消毒用アルコールを精製。同醸造所でも、アルコールフリービールの製造過程で発生する廃棄物であるアルコールを集めたり、ビールを蒸留したりして消毒用アルコールを造り、地域の薬局で販売した。
2022年には地元のパン屋で売れ残ったものを原料の一部に使用した「Brotbier」(パンのビール)をリリース。パンとビールは共に麦芽と酵母、水を原料としており、ドッペルボックなど麦芽比重の高いビールは「液体のパン」と呼ばれるほど親和性が高い。ドイツでは毎日大量のパンが廃棄されているが、そうしたフードロスを減らすのが狙いだという。ただし、パンの使用はビール純粋令に準拠していないため、特別な許可を得て製造している。
枠にとらわれない発想は代々続くもののようだ。定番商品「Brunnenbier」(井戸のビール)にも、名前の由来になったユニークなエピソードがある。昔、醸造所にも近いマイエルホフ広場の落成を祝い、特別に改造された井戸からこのビールを提供した。井戸のビールは無料で振る舞われ、人々はこぞって飲んだという。Brunnenbierは無ろ過でやや濁りがある。麦芽の香ばしさと甘みに続いて、テトナング地方のホップの特徴であるスパイスやハーブを連想させる香りと苦味が穏やかに顔をのぞかせる。すいすいと飲める一杯だ。
URL: www.gruibinger.de