ジャパンダイジェスト

旅ールのすすめ - ビールに会いに旅に出よう

山片 重嘉コウゴ アヤコ 1978年東京生まれ。杏林大学保健学部卒業。ビール好きが高じて2008年から1年半、ミュンヘンで暮らす。旅とビールを組み合わせた“旅ール(タビール)をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ビアジャーナリストとして『ビール王国』(ワイン王国)、『ビールの図鑑』(マイナビ)、『Coralway』(日本トランスオーシャン機内誌)など、さまざまなメディアで執筆。 www.jbja.jp/archives/author/kogo

ミュンスターにもある「アルトビール」

ミュンスターはノルトライン=ヴェストファーレン州に属する人口31万人程度の街。大学都市としても知られ、人口の1割を大学生が占める。州都のデュッセルドルフからはICEで70分ほど。街の中心部にあるミュンスター大聖堂は、ドイツを代表するゴシック式の建造物で、天文時計やステンドグラス、彫刻の美しさで知られている。

この街にあるピンクス・ミュラー醸造所の創業は1816年。ニーダーザクセン州アイヒスフェルトからやってきたヨハネス・ミュラーが、醸造所を併設するパン屋を開いたのが始まり。パン作りとビール醸造……奇妙に思われるかもしれないが、この二つは原材料が似ており、同じ職人によって行われることもあったのだ。ミュラーは、ドイツで最も古いオーガニックビールの生産者ともいわれる。

この醸造所を語る上で「OriginalPinkus Alt」は外せない。「Alt」(アルト)はドイツ語で「古い」の意味。新しいラガー製法ではなく、あえて上面発酵の伝統的な製法を取ったことからこの名前が付いた。ドイツ西部や北部では、地元に密着したアルトが多く造られていたが、デュッセルドルフ以外の街では衰退。ここミュンスターでも、アルトを造る醸造所は第二次世界大戦前は150カ所を超えていたが、現在はピンクス・ミュラー1軒を残すのみとなっている。

ミュンスターのアルトは、一昔前まで小麦麦芽を加え、乳酸菌の住み着いた貯蔵タンクで6カ月かけて熟成させていた。やや酸味があり、砂糖漬けのフルーツとシロップを加え、カクテルのように飲むことが多かったという。人々の味覚の変化に伴い、現在では小麦麦芽は使用されておらず酸味もない。デュッセルドルフのアルトが赤銅色であるのに対し、ミュンスターのものは明るい黄金色で、味わいもケルンのビール「ケルシュ」に似ている。すっきりとした飲み口で、ホップの華やかな香りが印象的だ。

www.pinkus.de

vol.94
Original Pinkus Alt

Original Pinkus Alt

 
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