ジャパンダイジェスト

ビオワインの世界 1 ビオワイン入門

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今回から15回にわたって、ビオワイン(エコワイン)についてお話ししたいと思います。

ワイン造りにおいても、ほかの農産物と同様、大まかに分けて3つの農法があります。非有機農法(化学農法、ドイツではKonventionelle Landwirtschaft=通常農法と言われます)、有機農法(オーガニック農法、ビオ農法、エコ農法)、そしてバイオダイナミック農法(ドイツ語でビオデュナミッシャー・ヴァインバウと言いますが、以後はビオディナミ農法で統一します)です。ビオディナミ農法は人智学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した農法です。

とは言え、すべてのワインをこれら3つのカテゴリーに厳密に分けることは難しく、非有機農法と有機農法、そしてビオディナミ農法との間で、様々なビオ生産者団体が独自の基準を設けて活動しているほか、団体に所属することなく、個人でビオ農法を実践している造り手も大勢います。日本語の「自然派ワイン」という言葉は、これらすべてを統轄して使われていますし、ほかにもIP(Integrierte Produktion=ビオ農法を取り入れた通常農法)、リュットレゾネ(la lutte raisonnée= フランス語で、直訳は熟考された対策。厳格な減農薬農法)という理念を掲げてワインを造っている醸造所があります。近年、注目されている持続可能性(Nachhaltigkeit)という考え方もビオ農法に取り入れられています。ビオワインの現状はかくも多様で、それゆえに全貌がわかりにくくなっています。

EUのビオマーク
EUのビオマーク

ワイン造りの場合は野菜や果物と異なって、ぶどうの栽培までが農業、ワインの醸造段階はアルコール飲料生産となるため、「ビオ農法」という言葉のイメージは実態を反映していません。実際、2011年ヴィンテージまでは、欧州連合(EU)のビオ基準はワイン用ぶどうの栽培に関するもので、公式には「ビオ栽培のぶどうから造られたワイン」でしかありませんでした。しかし、ようやくEUのワイン醸造におけるビオ基準が整い、2012年ヴィンテージからは公式に「ビオワイン」が誕生しています。EU基準を満たし、認証を受けたビオワインは、今後EUのビオマークとコード番号の表示が義務付けられます。2011年産ヴィンテージまでは、EU基準のビオの認証を取得していても、エチケットに表示していない醸造所がありましたが、今後はそれが明瞭になります。

ドイツで活動しているビオワイン生産者団体の基準はEUのビオ基準より厳しいのですが、個々の団体で異なる規定があり、どの団体が一番厳格であるかは、一概に言えません。所属しているドイツ国内のビオ団体の認証を取得した場合、ロゴマークの表示は大抵任意ですが、EU基準よりも厳格な基準を守っていることを示すため、ほとんどの生産者が表示しています。しかしビオディナミワインには、まだ公式な認証はなく、ドイツ国内唯一のビオディナミ団体(デメター)に属し、そのロゴを表示している場合にのみ、それと知ることができます。

これから少しずつビオワインとは何かを解説し、ビオワインの見付け方もご案内していきます。そして、ご一緒にビオワインについて詳しくなっていきましょう。

 
Weingut Sander
ザンダー醸造所(ラインヘッセン地方)

ザンダー醸造所(ラインヘッセン地方)
シュテファン&ザンドラ・ザンダー夫妻
創業250年、ラインヘッセン地方メッテンハイムの家族経営の醸造所。ドイツ最初のビオワイン醸造所として知られる。現オーナー、シュテファン・ザンダーの祖父オットーハインリヒは、1955年に化学農薬、化学肥料を拒否するなど、ドイツで初めてビオ農法に取り組んだ。そのため、この年はドイツのビオワイン元年とも言われる。シュテファンは祖父、そして父ゲアハルトによって守られてきた豊かな土壌を継ぎ、ビオを越えてビオディナミ農法に取り組んでいる。畑では自然の草を放置し、足りない場合には種蒔きをしてモノカルチャー(単一栽培)化を避け(緑化)、その草を刈り取って肥料としているほか、ビオディナミ特有の調剤を希釈して畑やぶどうに撒き、土壌とぶどうが本来の力を発揮できるよう手助けをしている。「理想の畑は森の中のような自然な土壌」とシュテファンは言う。ナトゥアラント、デメター、ルネサンス・デ・アペラシオンの3つのビオ団体会員。

Weingut Sander
In den Weingärten 11, 67582 Mettenheim
Tel. 06242-1583
www.sanderwines.com


2010 Spätburgunder Mettenheimer Michelsberg trocken
2010年 シュペートブルグンダー メッテンハイマー・ミヒェルスベルク 辛口 17.90€

ワインミヒェルスベルクはシュテファンの祖父の代から緑化されている畑。そのためレス土壌でありながら、表土は黒々としており、柔らかで、あらゆる種類の草が生えている。ビオディナミでは自然醗酵が好ましいが、条件ではない。しかし、ミヒェルスベルクのように半世紀以上に渡って化学農薬、化学肥料を使用していない畑から収穫できるぶどうの果汁には農薬の痕跡がなく、自然醗酵は上手く行くという。このシュペートブルグンダーは、透明感のある品の良い果実味に控えめなロースト香や醗酵茶の風味が重なり、酸とタンニンのバランスも良い。自然の恵みがしっかりと感じられるワインだ。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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