アジア諸国で古来活用されてきたうま味調味料の代表的なものに、魚醤、醤油、塩辛、味噌、豆豉(とうち)などがあります。このうち魚介類を素材にしたものが、魚醤と塩辛。ほかにもシュリンプペーストなどがあります。
魚醤にはタイのナンプラー、ベトナムのヌックマム、フィリピンのパティスなどがあり、日本でも一部の地域で使われています。塩辛には韓国のチョッカルやフィリピンのバゴーンなどがあり、主に調味料として使われているようですが、日本では保存食品でもあります。オキアミや海老から作るシュリンプペーストには、中国の蝦醤(シャージャン)、タイのカピ、インドネシアのトラシなどがあります。アジア諸国には、魚介類を原料とするうま味調味料が約300種類もあるそうで、塩やスパイスを使う感覚で利用されています。
醤油、味噌、豆豉は、大豆や穀類を素材としたうま味調味料です。日本の醤油に相当するうま味調味料には、韓国のカンジャン、中国の老抽(ラオチョウ)や生抽(シンチョウ)などがあります。日本の醤油は、寿司の流行とともにアジア諸国をはじめ世界中で広く普及しています。日本の味噌に相当するものには、韓国の唐辛子味噌であるコチュジャン、中国の豆板醤や上述の豆豉などがあります。
素材の違いや塩分含有量の違いはあるものの、上記のうま味調味料はいずれも発酵を経て得られるもので、食材の持つ味わいを活かしてくれます。
アジアでは、肉類をベースとするうま味も使われています。中国や韓国では、豚骨や鶏ガラを香味野菜と合わせて煮込み、うま味たっぷりのスープを取ります。沖縄でも、豚骨と昆布やかつお節を合わせたスープを取ります。昆布や野菜のグルタミン酸と肉や魚介のイノシン酸が一緒になると、うま味が増幅します。いずれも西洋のブイヨンなどに通じるものです。
日本の「だし」は、上記とは異なる独特のうま味を持つスープです。昆布や干し魚、かつお節、椎茸などから取る「だし」は、肉類を煮込んで取るスープとは違って繊細な味わいを持ち、和食料理の基本の味となっています。
「だし」は、ブイヨンのように何時間も煮込む必要がなく、手軽に取ることができますが、素材自体は大変な手間をかけて作られます。昆布を例にとると、産地は北海道沿岸地域で、3~10メートルくらいに成長するまで数年間待ってから収穫し、天日で干し、その後2~5年にわたって熟成させます。
昆布が含有するグルタミン酸の量は100g当たり2240mgで、グルタミン酸の多い食材としてはトップの座を占めています。ちなみに、2位はパルミジャーノチーズ(100g当たり1680mg)、3位は海苔(100g当たり1378mg)となっています。参考までに、イノシン酸含有量のトップはかつお節(100g当たり474mg)、2位はまぐろ、3位は鶏肉、グアニル酸含有量のトップは乾燥椎茸(100g当たり150mg)、2位はモリーユ茸(編笠茸)、3位は海苔となっています。
ところで、アジア一帯では古くから米が栽培され、食事には欠かせません。米のたんぱく質は麦のそれよりも質的に優れ、米は炭水化物であると同時に、良質のたんぱく質源でもあるそうです。一方、西洋では肉類や乳製品をたんぱく質源とし、パンなどで炭水化物を摂取します。東洋で多くのうま味調味料が発展したのは、米食であることも関係しているかもしれません。
ユルク醸造所(プファルツ地方)
左から父ヴェルナー、ヨハネス、弟フリードリヒ、
母カリン、弟モリッツ
独仏国境の町シュヴァイゲンにある、創業1961年の家族経営の醸造所。所有畑は18ヘクタール。3代目のヨハネスは、ヴァインズベルク醸造専門学校卒。ラインヘッセンのケラー醸造所、モーゼルのクレメンス・ブッシュ醸造所、ブルゴーニュのドメーヌ・デ・ランブレイなどで修業を積んだ。ヨハネスは父親から、いかに困難な状況に見舞われても平静さを保つこと、品質向上のためなら手間を惜しまないこと、トレンドを追わず独自のスタイルを模索することを学んだという。ヨハネスの目標は、個々の畑の違いを見極め、細やかな畑仕事を行い、畑の個性をそれぞれのワインに反映させること。ヴァインシュトゥーベも経営しており、彼の母と祖母が郷土料理を提供している。チーズやソーセージ類も自家製だ。
Weingut Jülg
Hauptstr. 1
76889 Schweigen-Rechtenbach / Südpfalz
Tel. 06342-919090
www.weingut-juelg.de
2014 Riesling Sonnenberg trocken 14.50€
2014年 リースリング ゾンネンベルク 辛口
ドイツとフランスの双方にまたがる畑、ゾンネンベルクのリースリング。
ユルク家が所有する区画はすべてフランス側にあり、このワインには特に石灰岩が多い区画のぶどうを使用している。
畑のフランス名はサン・ポール(St.Paul)。平均樹齢は45年。ワインはシュール・リー製法で醸造。「ボトリングまで7カ月間酵母と接触させたので、ワインのストラクチャーが堅固かつクリーミーになり、より味わい深くなった」とヨハネス。シュール・リー製法のワインには、通常製法のワインよりも、うま味の要素が感じられるといわれる。充実した味わいが楽しめるリースリングだ。