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ワインと食の合わせ方6 リースリングと食

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今から10年前、ドイツワイン・ナビゲーターの第1回目(2007年/ 第663号)に、リースリングの多様性と包容力について、以下のように書きました。

「リースリングは、たった一つの品種でありながら、ライトなものから重厚なものまで、また辛口から中辛口、甘口、そして極甘口まで、さまざまな表情を見せてくれます。そして、食中酒としておすすめのクヴァリテーツワイン、プレディカーツワインのカビネットといったカテゴリーのリースリングは、たいていの食事と難なくマッチしてしまうのです」

ドイツワインの中で、リースリングとならんでポピュラーなジルヴァーナーやヴァイスブルグンダー、シュペートブルグンダーなどは、中辛口や甘口がほとんど作られていませんし、極甘口などは例外です。世界的に見ても、リースリングのようにさまざまなスタイルのワインが作られているケースは珍しいのです。アルプス山脈の北側の気候が活かされたドイツワインは、低アルコールという観点からも注目を浴びています。

108回目(第1051号)で述べた「ワインと食のウエイトを合わせる」試みに、リースリングは最適です。食前のゼクトから食後のデザートワインまでのほとんどをカバーしてくれるからです。加えて、産地の気候や土壌の違いにより、硬質のものから柔らかなものまでさまざまなテクスチュアのものがそろいます。

我が家では週末の食卓にワインが登場します。献立は和食あり、洋食ありで、たまに南米料理も作ります。関西出身のせいか、私の料理は何を作っても味付けが控えめ。食材の風味を楽しみたいので、リースリングの場合は香りが控えめで、軽快かつ柔らかな仕上がりのものを選びます。逆にブラジル出身の夫は濃い味好み。私の料理に塩や醤油を足したり、和えるソースやたれを多めにしたりしています。庭にマンゴーやグアバが実る環境で生まれ育ったせいか、香りが華やかなゲヴュルツトラミーナやムスカテラがお気に入りで、リースリングも香りが充分表現された重めのものを選びます。。いずれにせよ、野菜料理をはじめ、鶏肉、豚肉、子牛肉にはリースリングをはじめとする白を合わせ、牛肉にはシュペートブルグンダーを開けることが多いです。ワインの好みは両極端ですが、それぞれにお気に入りの地域や畑、醸造所を探すのは楽しいものです。みなさんもご自分の好みを大切に組み合わせを楽しんでください。

ところで、先頃、ローター・リースリング種から造られたワインに出会いました。「赤いリースリング」という名称ですが、果皮に含まれる色素は赤ワインの生産には充分ではなく、白ワインが造られます。柑橘系ではない、熟したリンゴや洋梨系の風味、リースリングよりも穏やかな酸味、リースリングとは少し異なる凝縮感のある味わいで、濃い味付けの料理には、リースリングよりも相性が良い場合もあります。

リースリングはローター・リースリングの突然変異であるという説が一般的ですが、リースリングの突然変異がローター・リースリングであるという説もあります。2007年に、まずヘッセン州で栽培が認可され、今ではラインラント・ファルツ州などでも栽培可能になりました。まだ珍しい品種ですが、リースリングよりもやや病害に強いという利点もあるため、今後栽培面積が増えるかもしれません。

 
Weingut Prinz
プリンツ醸造所(ラインガウ地方)

Weingut Stachel
写真/フレッド&ザビーネ・プリンツ夫妻

背後にタウヌスの森が広がるラインガウの高台、ハルガルテンの家族経営の醸造所。所有畑は約8ヘクタール。うちリースリングが88%、シュペートブルグンダーが6%を占める。ハルガルテンの南東向きのユングファー、南西向きのシェーンヘルなど優れた畑を所有。いずれもレス、粘土、小石、砂の混合土壌で、ユングファーは珪岩が多く混ざる。オーナーで醸造家のフレッド・プリンツ氏は、ヘッセン州営クロースター・エーバーバッハ醸造所の醸造責任者として活躍していたが、1991年に個人用の畑を手に入れ、副業としてワインの生産をはじめ、2004年に独立。澄みきった味わいのリースリングはことのほか魅力的。現在ビオに移行中。VDP会員。

Weingut Prinz
Im Flachsgarten 5, 65375 Hallgarten
www.prinz-wein.de


Schäferlay2016 Roter Riesling trocken
ローター・リースリング 辛口 16.60€

プリンツ氏は専門誌の記事でローター・リースリングを知ったという。早速ガイゼンハイム研究所から苗を入手し、2006年に栽培を開始した。畑はハルガルテンのユングファー、栽培面積は0.2ヘクタール。「ローター・リースリングは比較的酸の量が少なく、エキス分が多い。力強く余韻の長いワインに仕上る」とプリンツ氏。古い品種で個体差があり、個々のブドウの生育ペースが異なるほか、収量の差が大きく、グリーンハーベストは必須だという。熟したリンゴの控えめな風味、柔らかな酸味の味わい深いワイン。

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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