ジャパンダイジェスト

輝け、原石たち
日本を飛び出し、ドイツで切磋琢磨する "若き血潮" を紹介します。


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1980年 香川県生まれ
2000年 横浜市立大学商学部経済学科入学
2003〜04年 ウィーン大学美術史学科に留学
2005年 横浜市立大学商学部経済学科・国際社会コース卒業。
2005年10月 渡独。ヴァイセンゼー・ベルリン芸術大学絵画科入学。
2010年9月 同大学修了予定
祖父、父ともに書家で、日本の前衛書家グループ「奎星会」の役員。自身も毎年同会が開く奎星展に2008年から出品し、09年に特選受賞。08年には線の多様性をテーマにしたプロジェクト“sen”を立ち上げ、在籍する大学でグループ展や書のワークショップを初開催した。

どんな書類もパソコン1台で簡単に作成できてしまう現代、自ら筆を握って「書く」機会は着実に減っている。しかし、一文字一文字手書きでしたためられた大切な人への手紙は、筆を引くその瞬間にしか表現されない筆者の想いであふれている。活字にはない、人の手によって生み出される線の温かさ。そこにこだわるのがアーティスト、中原一樹さんだ。

ヨーロッパの歴史、美術、文化に興味があり、日本の大学在籍中にウィーンへ留学した中原さん。それまで本の中でしか見たことがなかった、歴史ある美術品や建築の実物を見て、そのパワーに圧倒され、「自分もやってみたい」と思った。そして渡独後、アーティストとしての方向性を決定付ける、ある人物との運命的な出会いが待っていた。その人とは、現在も大学で師事するハンス・シマンスキー氏。ベルリンのギャラリーで偶然見かけた彼の絵の、自由な線や形、構図に魅了され、日本で制作した墨の絵を見せて指導を願い出たところ、快諾された。

中原さんが手掛けるのは、ドローイングを中心に、銅版画、書の3分野の作品。ドローイングは、紙の上に色鉛筆で均質な線を重ならないようにしながら何本も引いて円形のフォームを作る、実に緻密で根気の要る作業。微妙な感情の起伏が鉛筆を持つ手を通して直接、線に反映される。一方、銅版画では線の濃さや太さは銅板をエッチング溶液に浸す時間によって決まり、筆跡が残らない。そのため始点と終点が分からない永続的な線が生まれる。そして墨を使用する前衛書では自分の感覚に従い、綺麗だと思う形や線を一瞬にして引く。

これら性質の異なる3分野の作品を並行して制作することは、線の性質を理解するのに役立ち、それによる表現の可能性を広げる相乗効果を生んでいるという。

「線には表現する人の性格や感情が素直に現れます」と、中原さんは語る。その言葉は、1本の線に込められた書き手の気持ちに想いを巡らす時、そこに人と人とのコミュニケーションが生まれることを教えてくれた。

(編集部:林 康子)


「第58回奎星展」前衛書部門・特選受賞作
(2009年3月、東京都美術館)



2009年9月、ベルリンの所属ギャラリー
“Inga Kondeyne”での展示作品



2010年3月、BBK Liepzigによる
“Printing as an event 2”のfirst prize受賞作



ヴァイセンゼー美術大学のディプロム作品の展示
(2010年7月、ベルリン・ヴェディング地区のUferhallen)
Information

展覧会1
ハンブルクの芸術協会Griffelkunst-Vereinigung e.V.主催の “6. Graphikpreis”展で、銅版画の作品が展示される。
9月27日(月)~ 10月29日(金)
Kunsthaus Hamburg
Klosterwall 15, 20095 Hamburg
火~日 11:00~18:00

※2011年、同協会が所有する中原さんの銅版画の
エディションがドイツ各地を巡回予定。

展覧会2
銅版画で今年3月、ライプツィヒの芸術家団体BBK(Bund Bildender Künstler)e.V.が主催する公募展“Printing as an event 2”で first prizeを受賞した中原さん。その受賞者展が10月に行われる。
10月8日(金)~ 11月6日(土)
Galerie Vor Ort Ost
Rosa-Luxemburg-Str.19-21, 04103 Leipzig
火~金 12:00~17:00 土 13:00~16:00

中原さんのHP: www.kazukinakahara.com

 
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