少し前の話題になるが、この3月に野球のWBCで優勝した日本代表チームの戦いぶりには心揺さぶられた。小国チェコ代表の健闘が日本で注目を浴びたのもうれしかった。とはいえ、サッカーの国際大会と違って野球となると、ドイツにいながら盛り上がりの輪に加わるのは難しい。
あまり知られていないが、首都ベルリンで唯一ブンデスリーガの野球観戦ができるスタジアムがあるのだ。5月末の日曜日、息子を連れて久々に行こうと思い立った。U7のヤコブ・カイザー・プラッツ駅からM21のバスに乗って約25分、ケーニヒスホルスター・シュトラーセのバス停に着いた。メルキッシェス・フィアテルと呼ばれる機能的な団地街をしばらく北に歩くと、やがてスタジアム「フラミンゴパーク」の入口が見えてきた。ここが野球ブンデスリーガ1部、ベルリン・フラミンゴスの本拠地だ。
中に入ると、小さなテーブルが置かれ、にこやかなスタッフがチケットを販売している。大人は5ユーロ、12歳までの子どもは無料。バックネット裏と3塁側に観客席があり、のんびりと野球を楽しむ人たちの姿があった。その3週間前にサッカーブンデスリーガのヘルタ・ベルリンの試合を五輪スタジアムで観戦した際は、セキュリティーチェックを受けて中に入るだけでも一仕事だった。しかし逆に、この牧歌的な光景が新鮮に映る。
3塁側で試合を楽しむ人々
フラミンゴスは1990年に創設された新しいクラブ。2017年に初めて1部リーグに昇格し、降格も経験したが、この3年間は1部リーグにとどまっている。対するボン・キャピタルズは1部リーグ北地区で首位を走る強豪だ。ボンが初回に2点を先制すると、長打力のある選手が次々にホームランをたたき込み、たちまち8対1に点差を広げた。
ベルリン・フラミンゴスとボン・キャピタルズの試合から
フラミンゴスの実況アナウンスのトーンはやや曇りがちだが、土手のように盛り上げた3塁側の芝生に座りながら、私たちはのんびりと野球を楽しんだ。お昼になったので、屋台で焼きソーセージをほおばる。商業化されていない分、値段は手頃だし、ボランティアスタッフによる親切な対応が心地よい。
じつは今回5年ぶりにフラミンゴスの試合を観に来たのだが、うれしい発見があった。スタジアムに照明が設置されていたのだ。当時、球団広報の方がこんなことを話していた。「1部といってもアマチュアリーグですから、選手はそれぞれ本業を持っていて、練習開始は平日の18時以降です。彼らの練習環境を充実させるためにはどうしても照明が欲しい。まずは区を説得しなければなりませんが、私はやりますよ」。
あの思いが形になったのかと思う。結局この日、フラミンゴスは2対14の7回コールド負けを喫した。当分は1部残留が目標となるのだろう。ちなみに、野球の世界ランキングでドイツは現在19位。WBCのチェコ代表(現在16位)のように、フラミンゴパークがいつか東京ドームとつながる日が来ないとは限らない。
ベルリン・フラミンゴス
Berlin Flamingos
ライニッケンドルフ地区を本拠地とする野球チーム。ドイツ東部の野球チームでは最大規模で、会員数は220人ほど。2022年からドイツ代表のメンバーでもあるエノルベル・マルケス=ラミレスが監督兼選手を務めている。地域の子どもたちに野球の魅力を伝えるプロジェクト「FlaminGOSchool」も活発に行っている。
住所:Königshorster Str. 11, 13439 Berlin
URL:www.berlin-flamingos.de
野球ブンデスリーガ
Baseball-Bundesliga
1984年、米国の影響の強かった西ドイツで創設された連邦リーグ。現在1部リーグには北地区6チームと南地区7チームがあり、地区内で1シーズンを戦ったのち、それぞれの上位チーム同士でプレーオフを行って優勝チームが決まる。試合はホーム&アウェイ形式で、通常週末に2試合まとめて行われる。