今年春、こんなニュースが報じられた。「ペルガモン博物館がこの秋から4年間改装のために閉鎖され、全館が再オープンするのは2037年になる見込み」。
この博物館の代名詞となっている古代ペルガモンの大祭壇はすでに2014年から閉鎖され、大規模な修復作業が続けられている。「やれやれ、まだずっと続くのか。2037年に自分は何歳になっているだろう」と思わず数えてしまった。
ペルガモン博物館のイシュタル門
それから半年がたち、長期的な休館に入る10月23日が近づいてきた。それまでにもう一度観ておきたいと思い、博物館を訪れることにした。
9月半ばの平日、博物館島のエントランスホールであるジェイムス・ジモン・ギャラリーから館内に入る。コの字形の構造をもつペルガモン博物館において現在公開されているのは南翼だけだが、それでも膨大なスケールだ。ヒッタイト帝国の首都にあったヤズルカヤの岩石のレリーフから始まって、古代オリエントの大きな遺跡が無造作にゴロゴロ置かれている。日本語オーディオガイドの詳細な説明に聞き入っていると、あっという間に時間が流れてゆく。
このセクションのハイライトに位置付けられるのが、紀元前6世紀のバビロンの行列道路とその先にそびえるイシュタル門だ。濃いブルーのあざやかなこと。1枚の写真に収めるのが難しいほどの高さだが、ここで再構築されているのは全体の門のうち前門だけだから実際のスケールはどれほどのものだったのかと驚嘆する。
イシュタル門と対になる形で展示されているのが、その奥にある小アジアの古代都市だったミレトスの市場門。入口からここまでの展示はおそらく2037年まで再び観られない可能性が高い。この門と並んで私が好きな、ミレトスの食堂の床に描かれていた精巧なモザイク画まで、かみしめるように眺めて回った。
修復が始まっているムシャッタ宮殿のファサード
この博物館のファンとしての救いは、この部屋の奥にあるペルガモンの大祭壇と、北翼の古代ギリシャ・ローマ時代のコレクションは2027年から再び見学できるようになることだろう。その頃には本来の正面エントランスが玄関口になっているそうだが果たして……。
最後に南翼上階のイスラム美術のコレクションを観に行く。17世紀初頭、裕福なシリア商人が造らせた「アレッポの部屋」の赤地の装飾に感嘆し、そこを出ると21世紀の内戦で廃虚となったアレッポの街並みの写真に愕がくぜん然とする。先の部屋には、幾何学模様が美しいカーペットコレクションと、第二次世界大戦中に焼けたカーペットの痛々しい断片とが向かい合って並んでいた。
14年後の世界が惨禍にまみれていないこと、貴重な文化遺産がこれ以上悲惨な最期を迎えないことを祈るばかりだ。この博物館から想像させる広大な世界が、紛争や地球環境の変化で先細っていくのを見るのは忍びない。
ペルガモン博物館
Pergamonmuseum
建築家ルートヴィヒ・ホフマンの設計によって、1910年から30年にかけて建てられた博物館。1999年にユネスコ世界遺産に登録された。長期的な休館に入る直前の10月10日から22日までは、開館時間が毎日9時から21時までに延長される。混雑が予想されるため、オンラインでの事前予約が必須だ。入場料は12ユーロ(割引6ユーロ)。
オープン:火~日10:00~18:00、木10:00~20:00
住所:James-Simon-Galerie, Bodestr., 10178 Berlin
電話番号:030-266424242
URL:www.smb.museum/pm
ペルガモン博物館のパノラマ館
Pergamonmuseum. Das Panorama
芸術家ヤガデール・アッシジによる高さ30メートルの巨大パノラマでは、西暦125年4月8日、ローマ皇帝のハドリアヌスが訪問した古代ペルガモンの1日の様子が、きわめてリアルに再現されている。ペルガモン博物館の閉鎖期間もこちらは見学可能。日本語オーディオガイドも。
オープン:火~日10:00~18:00
住所:Am Kupfergraben 2, 10117 Berlin
電話番号:030-266424242
URL:www.smb.museum/pmp