最近、ベルリンのSバーンの車体が「100 Jahre Berliner S-Bahn」と書かれたすてきなロゴで彩られているのに気付いた。この8月、Sバーンが創業してからちょうど100年を迎えるという。当連載で取り上げたことがあるベルリンSバーン博物館(本誌1001号)が、最近東駅(Ostbahnhof)に移転して再オープンしたというので、この機会に足を運んでみることにした。
ズートクロイツ駅に停車中のSバーン484形
ツォー駅からSバーンに乗って東に向かう。シュタットバーン(略してSバーン)という名の都市鉄道がベルリンで生まれたのは、プロイセンにおける鉄道網の拡充と電車の急速な発達が背景にあった。1924年8月8日、AEG社による6両編成の電車が現在の北駅からベルナウまでを走行した。これが今日ドイツ語圏で広く定着しているSバーン誕生の瞬間といわれている。
電車は博物館島やアレクサンダー広場といった名所を横目に高架の上をゆるやかに走り、東駅に着いた。今年1月に再オープンしたばかりのSバーン博物館は構内の一角に目立たぬように構えていた。博物館を運営するSバーン同好会の方によると、最終的な場所が確定するまでの仮展示とのこと。スペースは小さい。
それでも展示物を見て回ると、一つひとつについ見入ってしまう。1930年に生まれた緑色のおなじみのロゴや実際の電車に使われていた木目の美しい客席、精巧に作られた模型など。
1961年のベルリンの壁建設によって、Sバーンも東西に分断された。それ以前、連合軍によってSバーンが一括して東独の国営鉄道ライヒスバーンの管轄下に置かれたため、東西間でねじれた状況が生まれることになる。東ベルリンのSバーンが活況を呈したのに対し、西ベルリンでは重要性を失った。西側の運賃収入が壁の建設資金に使われるのを防ごうとした政治家や労働組合が利用者にボイコットを呼びかけ、功を奏したことが大きい。東西を結ぶ電車が再び走り始めたのは、ようやく1992年になってからだった。
東駅構内にあるSバーン博物館
西ベルリン時代のSバーンの停滞は、欧州のほかの大都市にはない「時のよどみ」を生み出した。私がベルリンに住み始めた21世紀初頭、うなるような独特のモーター音を出す旧型電車がまだ走っていた。後になってそれらの車両が1930年代半ばに製造されたと知って驚いた。あの電車は戦前からの時の流れを線路に刻みながら走っていたのか……。
そんな骨董品のような電車も引退して久しい。地上を走るSバーンといえば夏の車内の暑さが身に堪えたが、最新鋭の483/484形ではついに冷房設備が備えられた。環状線(リングバーン)を中心に走るこの快適な電車に乗っていると、ようやくベルリンも欧州のほかの大都市並みになったのかとも思う。その一方、タイムマシンに乗ったのかと見紛うあの不思議な体験が懐かしくなる。そんなSバーンの次の100年に幸あれ!
ベルリンSバーン博物館
Berliner S-Bahn Museum
東駅の構内にある小さな博物館。ベルリンの都市と鉄道の歴史との関連からSバーンの歩みを紹介している。現在は仮展示場で、将来的にはリヒテンベルク駅構内に移設される予定。Sバーン100周年に合わせて、新しい展示が始まる予定だ。入場料は2ユーロ(割引1ユーロ)。
オープン:水12:00~16:00、木金15:00~20:00、日14:00~18:00
住所:Koppenstr. 3, 10243 Berlin
URL:www.s-bahn-museum.de
バーン100周年フェスト
100 Jahre S-Bahn - Das Festival
2024年8月8日(木)~11日(日)まで、Sバーン創業100周年を祝って大規模なフェスティバルが開催される。8日は「歴史と政治」、9日は「文化と社会」、10日は「技術と産業文化」、11日は「レジャーと家族」と、日ごとにテーマが設定され、展示や往年の電車による特別列車の運行など盛りだくさんの内容が予定されている。