ヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地で見つけたもの

6 September 2024 Nr.1225

7年ほど前、ベルリン出身のユダヤ人女性にインタビューするため、英国のヨークシャー地方を訪ねたことがある。エヴァ・ピントゥスさん（当時92歳）。第二次世界大戦開戦直前の1939年6月、14歳のエヴァさんはいわゆる「キンダートランスポート」で英国に逃れることができたが、父と姉はその前に病死。母と祖母はホロコーストの犠牲となった。その喪失の大きさを想像することは難しかった。

広大なヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地

一人暮らしの小さなアパートで話を伺っていると、エヴァさんがポツリと言った。「父と姉の墓石はヴァイセンゼーにあるはずです。行ったことはありませんが」。私がそのお墓に行って、エヴァさんに報告できたらいいのだが、と思った。同時に、「欧州最大級のユダヤ人墓地で見つけ出すのはまず無理だろう。そもそも、身寄りがいない人の墓石が今もあるのかどうか……」という思いもよぎった。

後になって分かったのだが、私の認識は間違っていた。まず、キリスト教の墓地と違い、ユダヤ人墓地の墓石はずっと残る。最後の審判の日に埋葬された死者が復活するという思想ゆえだ。そして、数年前、別の墓石の場所を調べていて、ベルリンのユダヤ共同体に問い合わせメールを送ったら、すぐに場所を教えてくれた。今回エヴァさんの家族のお墓について尋ねたところ、同じ担当者の方が「墓石は存在するものの、文字は断片的にしか読めないかもしれません」と丁寧な地図まで添えて送ってくれた。

7月頭の日曜日、息子を連れてトラムM13に乗り、Albertinenstraßeの停留所で下車。ひっそりした住宅街を10分ほど歩くと、黄色いレンガ造りの立派な建物が見えてきた。

インフォメーションでもらった墓地の地図を見て驚く。碁盤目状に整備され、アルファベットと数字を併用した区画名によって細かく分けられている。その数は実に120! 最初に歩いた一角は、主に19世紀末～20世紀初頭にかけての墓石が多く並び、森の中を歩いているような心地よい風に癒される。そこを抜けると視界が開け、真新しいお墓の区画。墓参りに来ている人たちにも出会った。

ピントゥス家の墓石の前で

エヴァさんの父と姉の墓石があるというUrnenfeld（骨つぼ葬地）IIIは、それまでの場所とは趣を異にしていた。平らな墓石がひっそりと並ぶが、長い年月のうちにコケや植物に覆われ、表面の文字が読めないものが多い。

これは探すのが大変だと思ったときに携帯に電話が鳴った。知人と電話で話していると、向こうの息子が目を大きくさせて地面を指差している。「まさか」と思い、携帯を手にしながらそこに行くと、確かにこれだ。ところどころで文字は欠けながらも、父ハインリヒ（1884-1938）と姉エディット（1920-1935）の生きた痕跡が目の前にあった。2020年に亡くなったエヴァさんに報告できないのは悲しいが、私がこのテーマに出会った頃、まだ生後間もなかった息子が、いつの間にか歴史発掘の頼れるお供になっていたのはささやかな喜びだった。