ドメーネ・ダーレムの広大な牧草地
19世紀後半、ドイツ帝国の首都となるまで、ベルリンはヨーロッパの一地方都市に過ぎない規模の町だった。当時の地図を見ると、現在のミッテを囲む城壁の外は、広大な牧草地や畑が広がり、時おり村が点在する程度だったことがわかる。ヴィルマースドルフやツェーレンドルフなど、Dorf(村)が語尾に付く地名にその名残は残っているわけだが、今回はベルリン市内に残る貴重な農村生活をご紹介したい。
地下鉄U3ダーレム・ドルフ駅(DahlemDorf)に降り立つと、わらぶき屋根の何とも味わい深い駅舎が迎えてくれる。都心部に比べて、心なしか空気までもが澄んでいるように感じられるほどだ。そう遠くない昔、ここは確かに村だったのだと思いながら、大通りを渡ってすぐ左側の入り口から「ドメーネ・ダーレム」の中に入った。久々に足を運んだ3月最後の日曜日、偶然にも「春祭り」が開催されており、大勢の家族連れで賑わっていた。
現存するベルリン最古の建物の1つ、領主の館
「ドメーネ」とは、「公用地、御料地」を意味する。ここの歴史は800年以上に及び、騎士農場だった時代を経て、1841年からはプロイセンの王立御料地となった。19世紀後半、人口が100万人に到達しつつあったベルリンにおいて、ここで生産される牛乳は、とりわけ重要な供給品だったそうだ。戦後、郊外の宅地化が進み、ほかの農場は次々と閉鎖されたが、市民の努力の甲斐あって、ここだけは農業と食文化をテーマにした広大な野外ミュージアムとして残されたのである。
ミュージアムと言っても、この中に入ると、誰もが突然田舎の農場に紛れ込んだような気分になるだろう。まず訪れるべきは、領主の館(Herrenhaus)。何度か増築されているものの、元々は1560年に造られたベルリン最古の住居の1つである。ベルリンの農業や食文化についての企画展のほか(展示は季節によって変わる)、特に楽しかったのは1階の「エマおばさんの店」。1920年代のベルリンでは街のいたるところにあった商店が、実際に使われていた家具や容器と共に再現されている。当時の衣装を着たおばさんが、笑顔で飴などを売ってくれる。
館の前の中庭には、馬小屋、馬車置き場、鍛冶屋などが当時のまま並んでおり、天気の良い日には屋外でオーガニックの食事も楽しめるようになっている。また、ここで栽培された野菜や果物を買えるお店(Hofladen)もある。
その奥は広大な牧草地だ。道なりに沿ってのんびり歩いていると、時々女性の手に率いられた馬とすれ違ったり、牧草にたたずむ牛や羊の群れ、案山子に出会ったりする。どこか気持ちが和らいでくるのは、普段あまり感じない土の感触と匂い、見渡す限り広がる緑、そこでくつろぐ動物たちの姿、たまに聞こえる「モオー」という鳴き声、これらが五感を通して伝わってくるからだろうか。公園の緑とはまた少し違った自然の恵みに感謝したくなる。
特にこれからは最高の季節。ツォー駅から地下鉄でわずか20分ほどの、大都市の中の田舎をぜひ体感してほしい。
ドメーネ・ダーレム
Domäne Dahlem
月~土の日中は敷地内のHofladenで有機栽培の野菜や新鮮な肉類が販売されているほか、毎週土曜の8時~13時にはエコマーケットが開催されている。4月のイースターエッグ探し、5月のソーセージ選手権、秋のじゃがいも祭りや収穫祭など、家族連れで楽しめる行事も定期的に開催されており、子ども向けのワークショップも盛んだ。
開館(博物館):火曜を除く10:00~18:00。1~2月は閉館。
3月は週末のみ開館。
住所:Königin-Luise-Str. 49, 14195 Berlin
電話番号:(030)6663 000
URL:www.domaene-dahlem.de
ダーレム博物館
Museen Dahlem
ダーレム・ドルフ駅からベルリン自由大学に向かって徒歩5分、プロイセン文化財団運営による博物館。民族学博物館とアジア美術館から成り、主に非ヨーロッパ系の充実したコレクションを揃えている。江戸時代の町人文化を克明に描いた絵巻物『熈代勝覧』(きだいしょうらん)のオリジナルは、ここに所蔵されている。
営業:火~金10:00~18:00、土日11:00~18:00
住所:Lansstr. 8, 14195 Berlin
電話番号:(030)830 1438
URL:www.smb.museum