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シャルロッテの夢の館  グリュンダーツァイト博物館

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無題ドキュメント

グリュンダーツァイト博物館
グリュンダーツァイト博物館内にある女性の部屋

比較的暖かい冬とはいえ、長時間の散策にはまだ厳しい季節。こんな時は屋内で過ごすに限る。1月のある水曜日、私の中でのとっておきの博物館に行ってみようと思い立った。それが、ベルリンの東の外れ、ヘラースドルフ地区にあるグリュンダーツァイト博物館。

1870年から翌年にかけての普仏戦争に勝利したプロイセンは、フランスから膨大な賠償金を獲得し、空前の好景気に湧いた。グリュンダーツァイトとは、「泡沫会社乱立時代」などと日本語で訳される、いわばバブル期である。工業化に伴い、多くの大企業が設立されたのもこの時代で、街にはゴテゴテと装飾豊かな建物が次々に建てられた。1880年から1900年頃までの住居や家具など生活文化をコレクションしたのが、この博物館だ。

緑に囲まれた昔の農場の邸宅が博物館になっていた。受付で「日本のメディアの取材で」と言ったら、館長のモニカ・シュルツ=プッシュさんが直々に案内してくれた。ドアを開けて最初に入ったのがガルテンザールという部屋。高い天井にガス灯のシャンデリア、得もいえぬ風格の漂う掛け時計に細かい彫刻を施された美しい木の戸棚、壁には皇帝ヴィルヘルム1世の肖像画が……。アンティークの家具に特別の関心がなくても、この部屋を満たす豊かな雰囲気には誰もが感じ入るのではないだろうか。博物館といっても、展示物に説明が書かれているわけではなく、すべてが「そのまま」の状態で置かれているので、今も誰かが住んでいるかのような気配さえ感じられる。

続く寝室では、子ども用の精巧なおままごと用キッチンに、今も昔も変わらない子どもの姿が目に浮かんで微笑ましかったし、化粧台に置かれていた直接火で熱して使うカーラーには、当時の女性の日々の苦労を想った。さらにベルリンの商人が所蔵していた調度品で満たされた書斎、ネオゴシック様式の食事室へと続く。地下に降りて行くと、ミッテのムラック通りにあった伝説的な居酒屋の内装が出現した。雰囲気たっぷりだ。

グリュンダーツァイト博物館では目だけでなく、耳をも楽しませてくれる。大きな金属の円盤をはめて鳴らすポリフォン社のディスクオルゴール、さまざまな楽器の音色を出す回転式自動楽器「オーケストリオン」、エジソンが発明した蝋管蓄音機。こういうものを1つひとつ聞かせてくれたのだが、電気テクノロジーが台頭する前に生み出されたこれらの機械からは、素朴でやさしい音が聴こえてきた。

それにしても、これだけのコレクションを一体誰がどうやって集めたのだろう。モニカさんが博物館を創設した人物、シャルロッテ・フォン・マールスドルフのことを話してくれた。「シャルロッテは男性でしたが、女性の心を持っていました」。どういうことかというと、彼は異性装者で、1990年代に出版された自伝「アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ」が大きな反響を呼び、やがて演劇化され、世界的に知られるようになったのだそうだ。

この博物館のコレクションは、彼が10代の頃から生涯をかけて集めたもの。時には個人から譲り受け、また時にはがらくたから集めて再び組み立てた。長い白髪にスカートのようなものをはき、首には真珠のネックレスをかけたシャルロッテは、90年代初頭まで自ら訪問客の案内をしていたそうだ。ここに寝泊まりしていた時期もあったそうで、この上なく優美な博物館の中には、いまもシャルロッテがどこかにいるような気がした。


information

グリュンダーツァイト博物館
Gründerzeitmuseum

東独時代の1960年、シャルロッテ・フォン・マールスドル フことローター・ベルフェルデによってオープンした博物 館。このテーマではヨーロッパ最大級のコレクションを誇 る。2002年にシャルロッテが死去した後は、友の会によ り運営されている。S5のMahlsdorf駅から62番トラムに乗 り、Alt-Mahlsdorfで下車。基本はガイド付きによる見学で、 希望により英語対応も可能とのこと。

住所: Hultschiner Damm 333, 12623 Berlin
電話番号:(030)567 83 29
開館:水日10:00~18:00 住所:Hultschiner Damm
URL:www.gruenderzeitmuseum.de

シャミッソー広場
Chamissoplatz

グリュンダーツァイトの生きた姿を見たいという方にお勧 めしたいのが、クロイツベルクの西側シャミッソー広場周 辺だ。戦争の被害を受けなかったため、1890年代に建て られた街並みがほぼそのまま残るベルリンでも希有な場 所。堂々たる偉容のアパートから街灯、バルコニーの装飾 まで見どころは多く、それ自体が博物館のよう。

住所:Chamissoplatz, 10965 Berlin

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
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