グライスドライエック公園の遊戯場で遊ぶ子どもたち
2000年9月末、私がベルリンにやって来てまだ間もない頃、地下鉄U2に初めて乗ってポツダム広場に向かった。電車は高架の上を走り、グライスドライエック駅の手前で眺望が開ける。その時の眼下の光景に私は驚いた。広大な敷地に赤錆びた線路がずらりと並び、雑草が生い茂っている。廃線になってから優に数十年は経っているはずだ。その奥に望めるポツダム広場の超モダン建築群とあまりに対照的な異観。「何なんだ、この街は!」と驚いたことを、昨日のことのように覚えている。
ポツダム広場の南側の、チョウチョウの羽のような形をした広大な空き地がそれだった。東側は旧アンハルター駅、西側は旧ポツダム駅の、それぞれ貨物駅だった場所だ。この敷地を公園にする案は、すでに1970年代からあったのだが、ようやく着工されたのは2008年になってから。段階的に工事が進められ、今年5月末、ついに東西2つのグライスドライエック公園がオープンした。
落葉の季節も終わりに近付いた11月のある日、Sバーンのヨルク通り駅で降りて、公園の東側からじっくり歩いてみることにした。
一言に公園といっても、少し歩いてみると、実によく設計された多彩な要素を持つ公園であることに気付く。芝生がきれいに整備された一帯もあれば、ビオトープとして自然をありのままに生息させている地帯もある。東側の出口近くには、子ども用のアスレチック施設がいくつか設置されており、長いベンチやブランコを含め、木製の手作り感があり、デザインも面白い。使われなくなったレールや信号も、風景にさりげなく溶け込んでいる。
公園東側に残された保存鉄道
ユニークなのは、保存鉄道として2線路が残されていることで、イベント開催時には南側の車庫から北側のドイツ技術博物館まで往年の客車が走る。ちなみにこの公園は、いくつもの鉄道路線に囲まれているので、高速で駆け抜けるICEから、高架をゴトゴトと走る2本の地下鉄まで、あちこちで電車が顔を覗かせて楽しい。
さて、今度は公園の西側に向かってみる。北に向かって奥行きがあるせいか、歩いていてさらに開放感がある。広大な芝生のほか、小菜園(Kleingarten)の区域、大きなビーチバレーコート、スケートボード用のボウル(曲面で囲まれた窪地)などもあり、あらゆる世代の人が楽しめるように工夫されている。公園の設計に、地域住民が積極的に関わった成果だろう。北側の一角ではアパートの建設が進んでいたが、幸いなことに、この広大な公園内で建物が占める割合はわずかに過ぎない。
私の手元に、戦前のグライスドライエックを空から捉えた貴重な写真がある。これを見ると、隙間なく一面にレールが敷き詰められていた当時の様子に改めて驚く。この上を1838年、ベルリン−ポツダム間を結んだプロイセン最初の鉄道が走り、また戦前、「皇帝駅」と呼ばれたアンハルター駅を発つ長距離列車が通っていたわけである。ドイツ史において貴重な産業遺産とでも言うべき場所が、ところどころに「鉄」の香りをとどめながらも、緑に満ち溢れた姿に戻されたことを心から喜びたい。
グライスドライエック公園
Park am Gleisdreieck
クロイツベルク地区の西側に位置する26ヘクタールの公園。最寄り駅はS バーンのYorckstr.のほか、U1・2のGleisdreieckなど。バリアフリーの出入り口もいくつか設置されている。公園の中央を通る直線道は、ベルリン − ライプツィヒ間を結ぶ自転車道として整備されるという。かつての貨物駅から公園への再生事業が評価され、2013年のベルリン建築賞を受賞した。自然保護のため、公園内での犬の放し飼いやバーベキューは禁止。
URL: www.gruen-berlin.de
カフェ・オイレ
Café Eule
グライスドライエック公園の西端、クラインガルテンが並ぶ一角にある小さなカフェ。カフェといっても、オーナーの女性がコンテナハウスを改造して営業している。飲み物のほか、キッシュやスープなどがメニューに並び、野菜や果物、ハーブはこの菜園で収穫されたもの。広大な公園の中で、ほっと一息つける空間だ。
オープン: 月〜日 9:45〜20:00(冬期は金〜日のみの営業)
住所: Kleingartenkolonie auf dem Gleisdreieck
電話番号: 0176-6366 2370