ベルリンの西の郊外ヴァンゼー駅に降り立つと、すぐ目の前にヴァンゼーの湖が広がる。中心部のツォー駅からSバーンで20分ほど揺られて来ただけなのに、避暑地に来たようなすがすがしさを感じる。今日はここからフェリーに乗って対岸のクラドウに行く。
ベルリン交通局(BVG)が運営する乗り物といえば、黄色いバスや地下鉄、S バーンなどをまずは思い浮かべるが、実はフェリーも何カ所かで走っている。その中でも比較的よく知られているのがヴァンゼーを横断するF10と呼ばれる航路だ。
余裕を持って乗り場に並び始めたが、出航時間が近づくにつれて行列が膨れ上がる。天気がいいので、その多くは自転車を手にした乗客。自分たちもベビーカーごと乗船するつもりだったので「これだけの人やものを全部収容できるのだろうか」と心配したが、まったくの杞憂だった。乗船すると左手に大きな自転車用の駐車スペースがあり、長い行列をどんどん吸い込んでいく(2014年に導入されたこの新型の船はバリアフリーの上、60台の自転車と300人の乗客を収容できるそうだ)。船内には、BVGのほかの乗り物と同じように黄色い手すりや刻印機が設置されていて、不思議な既視感がある。
フェリーの中は自転車がぎっしり並ぶ
13時に出航したフェリーはヨットハーバーを横目に湖をゆったりと進む。遠くには人工の海水浴場の砂浜も見え、自然と心も開放的になってくる。途中、検札の係員が来たが、私たちはBVGのAB ゾーンの定期を持っているので、追加料金を払う必要はない。日常の延長で観光気分も楽しめて、お得な気持ちになる。そうこうしているうちに20分弱の船旅が終わり、対岸のアルト・クラドウの降り場が近づいた。
フェリー乗り場の近くには何軒かのレストランがある。そのうちの一つに入り、野外のテーブルに腰掛けてベルリナー・ヴァイセを注文した。普段あまり頼むことはないが、自然に囲まれた場所ではこの甘酸っぱいビールを飲みたくなってしまう。
クラドウは中世初期にスラヴ人が入植して作られた古い集落で、現在はシュパンダウ地区に属する。19世紀に再建されたかわいらしい村の教会も残るが、もう少し水辺の風景を楽しみたいので湖畔の道を20分ほど歩く。着いた場所は「マックス・フレンケル博士の別荘庭園」という名の広大な庭園。横の入り口から庭園の中に入ると、小道に沿ってまかれた砂も、真っ白なベンチもまだ真新しい。後から知ったのだが、この春に再オープンしたばかりだそうだ。もともとの斜面の土地の構造を生かして、バラや果物、野菜などいろいろなテーマの庭園が段々畑のように配され、夏の間営業するカフェもある。」
この春に再オープンしたばかりの
マックス・フレンケル博士の別荘庭園
電車とフェリーを乗り継いでずいぶん遠くまで来たような気がするが、近くのバス停(Kaserne Hottengrund)まで歩けばツォー駅までのバスX34が出ている。まだ明るいとはいえ、いつの間にかもう夕方。遊び疲れた私たちにとって、バス1本で中心部まで戻れるのはありがたかった。
フェリーF10
Fähre F10
S バーンのヴァンゼーと対岸のアルト・クラドウの4.4キロを約20分かけて結ぶベルリン交通局(BVG)が運営するフェリー。年間を通して1時間ごとに運行しており、AB ゾーンの1回券(2.70ユーロ)で利用することができる。BVGが運行するフェリーは、大小合わせて6つの航路があるが、F10は週末の遠足コースとしても人気が高い。
マックス・フレンケル博士の別荘庭園
Landhausgarten Dr. Max Fränkel
1920年代、ユダヤ人銀行家マックス・フレンケルの夏の別荘のために、著名な造園家エルヴィン・バルトが設計した庭園。ナチスによる接収後、この土地は数十年もの間、人びとから忘れ去られていたが、1990年以降に大規模な改修工事が始まった。庭園内には4月から10月まで営業するカフェのほか、庭園の歴史を展示したコーナーもある。
オープン:月〜木7:00〜14:00(庭園のみ)、
金土日10:00〜18:00(庭園とカフェ)
住所:Lüdickeweg 1, 14089 Berlin
URL:www.sommercafe-kladow.de