5月4日、ベルリン日独センターにて、現代音楽を中心に活動する「アンサンブル・ホリゾント」を迎えてのオンライン工房トークが行われました。メインゲストに、このアンサンブルの創設者である作曲家のイェルク= ペーター・ミットマン氏と、日本から作曲家の伊藤美由紀氏がオンラインで参加。現代音楽の創作の現場に触れることのできる刺激的な時間となりました。
トークは奏者による実演を交えて進められた
今月末、アンサンブル・ホリゾントは日本とドイツの現代作品で構成した「自然との対話」というタイトルのCDをリリースします。これまで多くの日本人作曲家や演奏家と交流してきたミットマン氏は、「日本の音楽作品の多くに共通するのは自然への思いを馳せていることで、それは欧州のロマン派の美学とは遠いところにある。日独の音楽の対話を、自然の見つめ方というテーマで取り上げたいと思った」と語ります。
楽譜を示しながら解説するヴィオラのマリア・パッヘ氏
そのミットマン氏の作品から、「青の彼方」(Jenseits der Bläue)という曲が紹介されました。芭蕉の有名な句「閑しずかさや岩にしみ入る蝉の声」を引き合いに出し、「青く見える遠くの風景の輪郭に、神秘的なもののイメージが燃え上がる」という作品の詩的なイメージが語られます。その後、マリア・パッヘ(ヴィオラ)とヘレーネ・シュッツ(ハープ)の2人が、楽譜を示しながら作品の一部を演奏。作曲家にインスピレーションを与えたというセミの音をどう表現したかなど、ノイズ奏法も交えながら聴かせてくれました。
伊藤氏の作品からは、2019年のあいちトリエンナーレで初演された「鳥の創造」、さらにフルート、ヴィオラ、ハープの編成による「月の位相」(Lunar Phases)が紹介されます。後者では日本人が古来から持つ月のイメージが主題になっており、「日本的な時間感覚である『間』を大切にしながら、三つの楽器による繊細かつ透明感のある音響で、はかない美を表現しようとした」と伊藤氏。琴の音も想起したというハープとヴィオラの演奏を聴きながら、いずれぜひライブで体験してみたいと感じました。
ベルリン日独センターで行われたオンライン工房トーク「現代音楽」より
トーク後のQ&Aで、コロナ禍がクラシック音楽の世界に及ぼす影響について聞いてみたところ、「音楽によりテクノロジーの要素が入ってくるのではないか」(伊藤氏)、「デジタル化と共に、空間の捉え方が音楽家の中で変わってきた」(パッヘ氏)、「多くの人が想像力をもって今いろいろなことを試している。デジタルに可能性があるとはいえ、ライブで時を共有する体験はやはり代え難い」(シュッツ氏)など、登壇者から率直な答えが返ってきました。
このトークの模様は、ベルリン日独センターのユーチューブチャンネルでも後日公開される予定です。