さまざまな出自の文化や価値観が混ざり合い、新たな表現が日々生み出されているここベルリンで、日本の民謡と三味線をルーツに独自のパフォーマンスを繰り広げる音楽家がいます。「ベルリンでなければ今の活動はなかった」と柔らかな笑顔で語る、川口汐美さん。その来歴や現在のプロジェクトなどについてお話を伺いました。
和をベースにしながら独自の世界観を表現する汐美さん
小学生の頃、地域の方の勧めでまずは民謡を習い始め、三味線との出会いは10歳のとき。しばらくしていったん三味線から離れるも、吹奏楽などを通して音楽に関わり続けていたそうです。その後は木彫に興味が移り、美大の彫刻科を卒業。それから、ふとした思いつきで、三味線片手にシルクロードを西へ進む旅をすることに。言葉が通じずとも音楽があればコミュニケーションが取れると分かり、日本に戻ってから再度本格的に三味線を習ったといいます。さらにニュージーランドやオーストラリアへの移住など紆余曲折を経て、ベルリンにたどり着きました。
汐美さんはベルリンで、三味線愛好家協会で知り合ったメンバーと三味線トリオ「蜜音」を結成。また、日本の歌謡曲をオマージュした楽曲が特徴のバンド「ジャガーの眼」や、ジャズバンド「The JAPS」に参加し、その活動を着実に広げていきました。さらに現在では、ドラム奏者とデュオでのノイズミュージック、ダンサー・俳優と協働で作る劇場型のプロジェクト、そのほかコラボレーションも精力的に行っています。
多国籍なメンバーで構成された三味線トリオ「蜜音」
「分かりやすい日本の民謡や三味線のイメージだけに囚われていたこともありました。けれど、いつでも素直で、本音で話すベルリンの人々がくれる刺激とインスピレーションに向き合ったとき、私も自分に正直になろうと思えたのです。そのおかげで、こんなに自由でしがらみのない音楽活動ができるようになりました」と汐美さん。年代も趣味趣向も幅広い人々から興味を持ってもらえるのがうれしいと語ります。また、街を歩いているだけで面白いものを見つけられる土地柄もとても気に入っているそう。ある日、道路脇で「ご自由にどうぞ」と書かれた箱に色とりどりの造花が入っているのを発見して、ステージ衣装に使用したこともあるのだとか。
ほかの国に住んでいたときは一つの場所にまとまった期間定住することがあまりなかったそうですが、ベルリンではこれまでになく人とのつながりができ、暮らしの根が伸びているのを感じるそうです。「やりたいことがまだまだたくさんある」と話す汐美さんの表情は、ポジティブなエネルギーで輝いていて、嘘のない生き方の大切さを改めて教えてくれました。
コンサートの情報などはインスタグラムにて更新されています。これからも、彼女にしかできないパフォーマンスが、人々に驚きと楽しさを届けることでしょう。
汐美さんのインスタグラム:@shiomi_san