私がベルリンで好きな場所の一つに、街を東西に横断するように流れるシュプレー川があります。特にクロイツベルクを流れるシュプレー川の一部、ラントヴェーア運河のほとりがお気に入りです。ラントヴェーア運河は1845〜1850年にかけて建設された運河で、トレプトウからシャルロッテンブルクを結んでいます。暖かい季節になるとこの河岸に人々は集い、ビールを飲んだりお散歩をしたりしながら、思い思いの時間を過ごします。
Flussbadの目の前を流れるシュプレー川。施設が川沿いの環境に溶け込んでいます
先日、ラントヴェーア運河に分岐する少し手前の、ベルリン南東に位置するルンメルスブルクエリアのシュプレー川沿いを訪れました。目的は、2023年にオープンしたFlussbadという複合施設を訪れることです。Flussbadは、かつて公共浴場だった場所に建設されています。この公共浴場は1927年にオープンし、当時は最大で1日当たり1万人もの来場者があったほどにぎわっていたようです。しかし、河川の汚染が進んで泳ぐことができなくなったため、1950年に完全閉鎖されました。長らく放置されていたこの跡地を再開発して誕生したFlussbadでは、さまざまな分野を超えたコラボレーションを通して、新しい価値を創造することが目的とされています。今後、段階的にスタジオ、オフィス、ホテル、レストラン、講堂といった施設がオープン予定のようです。
Reethausの設計はオーストリアの建築家、モニカ・ゴー グル。古代の寺院、洞窟から着想を得ているとのことです
未だ完成していない通路を通り抜け、中庭に足を踏み入れると、台形のかやぶき屋根が目印のReethausに到着しました。Reethausは、360度の空間音響システムを備えたパフォーマンススペースで、定期的にイベントが行われています。この日はハープ奏者のエヴァ・マーティンと、アーティストスタジオMONOMが作り上げた音楽体験が用意されていました。中央に敷かれた畳のような黒いマットの上には、ウッドチップが入った枕が用意されており、来場者はそこに寝っ転がったり壁に寄りかかったりしながら音楽を聴きます。ベビーカーを置くスペースはないようですが、小さな子ども連れの家族も何組かいるのが印象的でした。
16個のスピーカーが壁に設置されているReethaus
光が差し込む高い天井を見つめていると、日本のお寺にいるようでありながら、同時にベルリンの深い森の中で寝そべっているような、二つの時空が混ざり合う不思議な感覚を覚えました。ハープの音色に呼応しながら流動的に紡がれる電子音は心地よく、しばし雑念を手放して音楽に没入することができました。今後もさまざまな実験的なプログラムが行われるこの場所は、かつての公共浴場のようににぎわい、多くのベルリンの人々にインスピレーションを与えてくれることでしょう。