ベルリン市とベルリン=ブランデンブルク放送(rbb)は、2017年から毎年ベルリンのジャズシーンに功績のある音楽家にベルリン・ジャズ賞を授与しています。先ごろ、2023年はマリンバ&ヴィブラフォン奏者の齊藤易子 さんに贈られると発表されました。
ベルリン・ジャズ賞2023に輝いたマリンバ奏者の齊藤易子さん
7月3日(月)に行われた授賞式と記念コンサートに足を運ぶ機会に恵まれました。舞台となったのは、rbb本社の「スタジオ14」。エレベーターで最上階に上がると、そこはベルリン市内とグルーネヴァルトの森を一望できる最高のロケーションで、ラウンジバーでくつろぎながら開演を待ちます。
齊藤さんは1976年、札幌市生まれ。6歳でマリンバを学び始め、桐朋学園大学ではマリンバ奏者の安倍圭子に師事。それまでクラシック畑だった齊藤さんに一大転機が訪れたのは、米国のヴィブラフォン奏者デヴィッド・フリードマンとの出会いでした。1998年にベルリンに移住し、ベルリン芸術大学で教えていたフリードマンのもとでジャズを学ぶことになります。
授賞式では、ベルリン市のジョー・キアロ文化大臣から齊藤さんに賞状が贈られました。審査員は今回の受賞理由をこのように記しています。「齊藤易子は、ベルリンのジャズシーンの中で『マジシャン』と呼ばれるのみならず、繊細な音から世界を花開かせる方法を知っている。彼女のクラシック音楽のバックグラウンドには、日本の伝統と内なる神秘的でエネルギッシュなパワーとが融合している。(中略)ベルリンのジャズ界における齊藤の重要性は議論の余地がない」。
その後のライブでは、長年の音楽におけるパートナーであるピアニストのニコ・ラインホルトらとの共演により、齊藤さんの演奏が披露されました。いずれも彼女の作曲とアレンジによるオリジナルで、名人芸的な即興演奏も織り込まれます。マリンバのアンサンブルによるどこか郷愁を誘うような響きから前衛的な作品まで、その芸風は極めて多彩。「こもどのこども」「枯れた花に降る雨」「くるくるくらいぜる」など、日本語による楽曲タイトルが想像力をかき立てます。
終演後、司会者からの質問に齊藤さんが流暢なドイツ語で答えました。数々のジャズのコンサートのみならず、フォルクスビューネやシャウビューネでヘルベルト・フリッチュ演出の演劇作品でしばしば生演奏するなど、地元に根を張った活動を続けてきた齊藤さん。ベルリンについてこう語ります。「恩師のデヴィッドをはじめ、ベルリンで素晴らしいミュージシャンに出会えたことに感謝します。この街から離れる理由は今のところありません」。
この夜の模様はrbbKulturにてライブ中継されました。プログラムに描かれていた2本のマレット。この枹 から生み出される齊藤さんの妙技をまた味わいたいと思いました。
受賞コンサートはrbbKulturでライブ中継された