木々に囲まれた湖や川辺、公園、森の中のカフェテラスやビアガーデンなどで、それぞれの快適さを感じながらリラックスして過ごす人々。ここベルリンでも、ドイツ各地、ひいては欧州の多くの都市と同様に、太陽の光が満ちた空間で、木漏れ日や風のざわめきを、めいっぱい楽しむ時間が大切にされていると感じます。そんな人間たちを横目に、今年の葉を広げきった木々はすでに秋の装いへと変化しつつある今日この頃。とても平和な光景に思われますが、よく観察してみると、あることに気が付きます。それは、元気のない白樺の樹。ここ数年間で白樺の伝染病が拡大中で、栄養を失い立ち枯れている白樺が増えているとのこと。伝染病の主な要因は地球温暖化だといいます。
樹冠から枯れ始めている白樺。阿部雅世さんによって今年撮影されたもの
何気ない暮らしのなかで、すぐそばにある自然に目をやり、地球全体で起こっている何ごとかを感じ取る。それはベルリンのような都会にいながらでも簡単にできるはず。しかし、意識しなければ見過ごしてしまうほど、情報に溢れた世界に私たちは生きています。前述の白樺についても、ある方からそのお話を聞かなければ、もしかしたら今も知らずにいたかもしれません。
昨年夏に、著書『見えないものを知覚する これからの生活哲学』(平凡社)を上梓された、ベルリン在住の阿部雅世さん。阿部さんは、感覚体験デザインの第一人者として幅広い分野で活動しつつ、在欧生活33年目を迎えた日本人デザイナー。ベルリン芸術大学ほか、欧州の三つの大学でデザイン学部の教授を歴任し、現在はリュブリャナ芸術大学、金沢美術工芸大学で客員教授を務めつつ、世界各地の教育機関でワークショップを開催するデザイン教育者でもあります。1957年の国際建築博覧会時に、ベルリン中心部の巨大な森林公園ティアガルテンの一角に建設された建築遺産住宅群にあるご自宅とスタジオが、阿部さんの仕事場兼遊び場。ベルリンという都市の真ん中で、ウサギやキツネ、リスや小鳥たちと共存する暮らしが気に入って、この地に落ち着いたのだそうです。「ベルリンという都市の暮らしの中でも、目には見えぬ環境の変化を知覚することはできる。私にとってコロナの3年間は、ある日突然籠城生活が始まるリスクを常に覚悟せよ、という警鐘でした」。
『見えないものを知覚するこれからの生活哲学』(平凡社)。阿部さんのスタジオにて撮影
猛烈なスピードで変動する気候をはじめ、世界が目まぐるしく変化するなかでどう生きていけばよいのか。誰もがそんな迷宮に入り込んだ現代で、想像力を巡らせ、見えない脅威を知覚する。人間が本来持っている、見えない力を知覚する。そのためのアイデアと哲学が詰まった阿部さんの著書は、暮らしのお守りのような一冊です。手に取りやすい電子書籍版も。
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