3月21日は、国際人種差別撤廃デーでした。ハノーファー市歴史博物館では、それに合わせて「茶色に対して色とりどり-人種差別にチャンスを与えるな」と題した写真展が開かれています。コロナ禍により博物館は閉館していますが、 28点のポートレートが博物館のショーウインドーに飾られており、5月ごろまで外から見られるそうです。
これらの写真を撮影したのは、イラン出身の写真家ベーヌシュ・マーティネツ・ハートマンさん。1990年に両親と一緒にイランからドイツに移住し、現在もハノーファー在住です。白黒で撮影された人物は、人種差別撤廃を求めてそれぞれポーズを取っています。人物の手や顔などに赤や青、黄色、緑の色が塗られ、多様性を表しているそうです。
20年6月に開かれたハノーファーでの黒人差別反対デモ
それにしてもなぜ、「茶色」は人種差別と関係あるのでしょうか。その理由は、茶色がナチスの制服の色だったからです。ナチス政権は金髪碧眼のアーリア人を優秀と考え、ユダヤ人やシンティー・ロマなどの他人種を劣勢として迫害しました。そのため、茶色は極右思想と結びつけられるようになったのです。
写真展のモデルの一人は、ハノーファーのベリット・オナイ市長です。緑の党から州都の市長が生まれるのは初であり、加えてトルコにルーツを持つため、一昨年に38歳で就任した際には大きな話題となりました。しかし、オナイ市長は就任当初から人種差別的な発言にさらされ、そのひどさに驚いたといいます。
3月24日にはハノーファー出身の哲学者ハンナ・アーレント(1906-1975)をテーマとした催しの一環として、人種差別についての講演会がありました。この講演会には市長も参加し、植民地や欧州中心主義について議論。ドイツ社会では少数派出身である市長は、市の多様性を後押ししていると感じました。
人種差別反対を訴える写真展
昨年米国でジョージ・フロイドさんが警官に殺害された事件をきっかけに、黒人差別に反対するデモが世界中に広がりました。ハノーファーでも、これまで社会的に認知されていなかった黒人差別が可視化。私も初めて、黒人のルーツを持つ人々がどのような気持ちで生活しているのかを知りました。
私はドイツに20年以上住んでいますが、 あまり人種差別を受けたことがないと思っていました。しかしよく考えてみると、思い当たる節がいくつも浮かんできます。これまで不快に思うことがあっても気のせいだと受け流してきましたが、今では相手に差別意識があったかもしれないと思うようになりました。そうして意識することで、反論したり、何か行動を起こすことにつながるのかもしれません。最近米国でアジア人が差別や暴力を受ける例が増えているとの報道もあり、他人事ではありません。人種差別撤廃への道のりはまだまだ長いようですが、写真展などの地道な活動を通じて、考えるきっかけが増えればと願います。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳・翻訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』、『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)など。