ハノーファーの市庁舎では毎年、市民が誰でも参加できる新年会が開かれています。今年は、ユネスコの音楽都市(UNESCO City of Music)に認定されてから10年を迎えたのを記念して「音楽が結びつける」をテーマに開かれ、 3000人でにぎわいました。
市民の前でオナイ市長があいさつ
当日の1月10日(金)は天気が悪く、じめじめしていました。夕方5時から8時までなので、行く人は少ないのではないかと思って出かけたら、なんと満員電車並みの混雑。議場や会議室、ホールが解放され、さまざまな音楽で溢れていました。クラッシックはもちろん、ジャズや合唱などの多彩なプログラムで、音楽学校の若者や子どもたち、またハノーファー在住の音楽家たちが生き生きと奏でているのが印象的でした。
オナイ市長は式典のあいさつで、長引くウクライナ侵攻やドイツの連立政権崩壊に触れ、「この時代にふさわしい音は何だろうかと問うとき、音楽を思い浮かべるでしょう。音が音楽を作る。2025年に際して、私は皆さん全員に、計算高くならず、もっと思慮深くなるよう呼びかけたいと思います。これは、社会での互いのやりとりや政治的取り組みにも当てはまります。音楽は全ての音の総体です。一つの大きな音だけでなく、静かなものも含めて、多くの音や声からできている。もっと耳を傾け、よく見るべきであり、それが勇気を与えてくれるでしょう」と述べ、連帯を呼びかけました。また「ハノーファーで、音楽はただ聴かれるものでなく、人と人との懸け橋であり、私たちのアイデンティティーの表現であり、異文化とのつながりです」と話しました。
議場では議員席に市民が座って音楽鑑賞
会場ではジュースやパンも配られ、市民がおしゃべりしながらくつろぐ姿があちこちで見られました。「この市庁舎は私たち市民のもので、誇りに思っている」という感じが伝わってきました。
昨年の新年会に参加した人の話によると、市の予算や政策についての話がメインでお堅い感じだったとか。今年も各部門の責任者や副市長と市政について議論する場が設けられていましたが、それよりも音楽が中心の催しとなりました。昨年の訪問者は2000人でしたから、今年は1000人増。市の仕事に理解を深めることはもちろん大事ですが、音楽は万人に人気が高いようです。ハノーファーでは、今年もユネスコ音楽都市として多彩な催しが計画されており、楽しみです。
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。