ハノーファー市内のオペラ広場向かいにあるGOP (Georgespalast)では、数カ月交代で、世界各国のパフォーマーによるコメディーとアクロバットを組み合わせたエンターテインメントショーが繰り広げられています。現在上演中の「SLOW」は、ドイツを始めスイスやオーストラリア、フランスなど11人のパフォーマーが出演しており、そのうちの一人が大阪府出身の深河あきらさんです。ディアボロを使った迫力あるショーで、観客を魅了しています。
ディアボロを使いパフォーマンスする深河あきらさん
ディアボロは、中国ごまとも呼ばれ、お椀を二つ重ねたような形のコマを紐で操るパフォーマンス。深河さんは、小学校3年生のとき祖父にディアボロを買ってもらったことをきっかけにジャグリングに目覚め、高校生のときにプロになろうと決めました。看護士の母親が、病気の人々を救おうという気持ちで仕事をしているのを身近で見てきた深河さん。自分がジャグリングの存在に救われていることから、ショーを見ている人に何か与えることができたらと考えました。ジャグリングにはディアボロのほか、リングやボールなど様々な種類があり、空中に複数の物を投げ、それを受けたり操ったりすることを指します。
2016年パリのコンテスト・シルク・ドゥ・ドゥマンで、審査員特別賞を受賞したのをきっかけにGOPの目に留まり、今回このショーに2カ月参加することになりました。深河さんにとって初めてのドイツ長期滞在で、市内もじっくり観光したそうです。教会を訪れた際には「人のぬくもりと歴史が積み重なってできあがったもので、人をつなぎ、救う力があると感じた。ディアボロにもそういう思いを込めて取り組んでいる」と話し「一生懸命取り組むことで、音楽でもアートでもジャグリングでも、人を救うことができると思っていたが、ドイツに来てそれを再確認した」と熱く語ります。
ショーが繰り広げられるGOP(Georgespalast)内部の様子
京都のノンバーバル公演『ギア-GEAR-』にレギュラー出演する深河さんは、2010年にはディアボロ4 つで公式日本記録を更新。「ジャグリングとは自分の限界に向かって一人で積み重ねていくこと。「SLOW」は、パフォーマー全員が命を掛けたショーです。ぜひ見にきてください」と呼び掛けています。
私も見てきました。前の席に座ると舞台が近く、体の動きがよく見え、パフォーマーの気迫が伝わってきます。自分の体で何かを表現できるのは本当にうらやましい限りです。きびきびした動き、腕の筋肉、すべてが美しく、ほれぼれします。その道のプロになるまでに、どのような自己鍛錬がされてきたのか。爽やかな笑顔の下に、地道な努力が隠されています。褒めすぎ? いえ、それほど引き込まれる舞台でした。磨かれたプロの技はそれだけで周りの人を幸せにします。「SLOW」は3月5日まで。チケットは15〜44ユーロ。
www.variete.de/spielorte/hannover/programm/shows/slow
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。