映画「アンネの日記」に、隠れ家でアンネが姉のマルゴーと一緒に踊る場面が出てきます。窓を開けることを禁じられた空間で、物音を立てないようにじっと我慢していた身体を解放する。動ける喜びが溢れ出ている印象的なシーンでした。
先日、ブラウンシュバイク市内にある国立劇場で、「Ausbereitungszone」という舞台を鑑賞しました。この舞台は「Tanz Theater Traum(ダンス・演劇・夢)」というプロジェクトから生まれ、25名の10代の若者たちが若手振付師と一緒に8カ月かけて作り上げた演目です。プロジェクトは、国立劇場と地元の学校の協働で行われており、助成金で運営されているため、誰でも無料で参加することができます。実は、僕は映像記録係として、この企画に携わっていました。
夕陽と踊る
プロジェクトはまず、旅からスタートします。若者たちは山の中で6日間の合宿をし、山を歩き、木々に触り、湖の水と戯れ、焚き火を囲み、思いっきり自然と触れ合います。参加者の中にはダンス未経験者もいて、「ダンスがうまくなりたいから」、「舞台に立ちたいから」と動機を語りました。その後いくつかのチームに分かれ、振付師と一緒にワークショップに取り組み、自分の身体と向き合います。自分はどんなことに怒りを、また喜びを感じるのか。緑が茂った森、枯れた木に何を感じるか。光の動きに合わせて身体を動かしたり、周りにあるものを一緒に高く積み上げたり、石や木の上で踊ってみたり。遊びを交えながら身体を動かしていきます。また、静かに目を閉じて自分の内面を見つめる時間もありました。
湖のほとりのワークショップ
旅の後は劇場の見学です。劇場でどんな人たちが働いているのか、どんな仕事があるのか。役者や演出の仕事に加え、照明、音響、小道具など裏方の仕事もじっくり見ていきます。その後、毎週の稽古を積み上げて、公演を完成させていきました。
彼らの活動を記録していくなかで、最初は照れを隠せなかった若者の顔つきが、練習を重ねるにつれ徐々に変わっていくのが分かりました。この舞台で僕が見たダンスは、音楽に合わせて動きを揃えていく一般的なダンスとは性格が異なるもの。場面のコンセプトをそれぞれが解釈し、それを自由に身体で表現するので、みんな違った動きを見せます。そこには、言葉で説明しづらい面白さがありました。
主催者のテレーザさん
「ドイツ語を母語としない若者が、言葉を使わずに、身体表現を交わしながら仲良くなっていくプロセスが魅力的だった」と、主催者のテレーザさん。幕が降りて、家族や友だちの拍手に包まれながら、誇らしく手を取り合う若者たちの姿を、ずっと見ていたい気持ちになりました。プロジェクトの旅のパートを紹介する動画があるので、よかったらのぞいてみてください。
プロジェクト「Tanz Theater Traum」紹介ビデオ: https://vimeo.com/301687506
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net